コラム記事一覧へ

2022年3月 1日

【ブック&コラム】ベトナムとウクライナ

 以前、ベトナムを旅行した時に「クチ地区」を訪れた。クチはホーチミン市に近い農村部で、ベトナム戦争当時、南ベトナム民族解放戦線の兵士らが掘り進めた地下トンネルで知られる=写真。総延長は200キロ以上に及び、北ベトナム(当時)の兵士らにとって米国兵と戦う重要拠点だった。
 
c220301.jpg 実際に中へ入って蓋を枯葉で覆うと、入り口はわからない。トンネル内部は非常に細く、日本人の私がやっと通れる幅で、現地ガイドは「大柄な米国人が通れないような幅にした」と解説した。そのクチのトンネルが、現代では「観光地」として人気を集めているというから、「ベトナム反戦」の青春時代を送った私には信じられない風景だった。しかし、ガイド氏が「国を守り抜いた」と誇らしげに言う姿には心を打たれた。

 いま現在、ロシア軍に国土を蹂躙(じゅうりん)されているウクライナも激しく抵抗しているが、近代兵器を駆使する攻防戦を映像で観ると、ベトナムの原始的なトンネルが素朴で牧歌的にさえに思える。時代も政治状況も大きく異なる戦争だから当然だが、それでも超大国の攻撃から「国を守る」という気概は同じではないかと思う。

 そんなウクライナに対して、ロシア指導者は核兵器の使用を匂わす発言までしている。当時の米国も核使用を検討したが、結局は見送ったという。米国も「悪魔の兵器」を2度も使う"勇気"はなかった。にもかかわらず、核をチラつかせて威嚇する大国の傲慢さには、人間性のカケラも感じられない。とにかく、戦争を止めて話し合いの席に着くことだ。死の恐怖に怯えながら逃げ惑うウクライナの人々の表情が映し出されるたびに、「生き延びてほしい」と祈らずにはいられない。(俊)

PAGETOP