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2022年6月 2日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」125・勤務態度が悪い従業員解雇の適否

Q 勤務態度が悪い労働者がいて困っています。最低限の仕事はできるのですが、職場の同僚に対する悪口が度を過ぎており、勤務中に私用メールを何通も送るなどの態度が続いています。最終的には解雇は可能でしょうか。

koiwa1.png 労働者は会社と締結した労働契約に基づいて就業しますが、労働契約の一方当事者である労働者は、一般的に集団的労務提供の一環として労務提供義務と企業秩序遵守義務を負うとされています。労務提供義務は職務専念義務とも呼ばれますが、単に出勤して働いていればよいというものではなく労働契約で決めた「債務の本旨」に従ったものでなりません。また労働者は就業時間中、使用者の指揮命令の下、職務に専念する義務を負い、勤務中は心身の注意力のすべてを職務の遂行に向けなければなりません。

 企業秩序遵守義務とは、円滑な職務遂行を維持し、企業の社会的評価などを保持するため、企業秩序を遵守すべき義務のことをいいます。労働者がこれらの義務に違反したときは、懲戒や解雇理由になり得るとされています。

 ただし、労働者を解雇する場合には客観的合理性や社会通念上相当性が求められるため、同僚に対する悪口や勤務中の私用メールなどが職務専念義務や企業秩序維持義務に違反したとしても、会社が業務指示や教育・指導など必要な業務指揮権を行使せずに行われた場合は、解雇権の濫用として解雇が無効と判断される可能性が高いといえます。

 具体的には、勤務態度の問題について、会社が書面で注意をした上できめ細かく改善指導を行って、その後の経過について丁寧に記録を残し、それでも改善が認められない場合は譴責・減給などの懲戒処分をして、さらに改善指導を継続することが考えられます。裁判例の中には、このようなプロセスを経て半年後、一年後の解雇が有効と判断された例が認められます。

 また、職場において協調性を欠くことが問題とされる例もありますが、協調性については往々にして人間関係における主観が介在するため、実際には客観的・合理的な判断が困難なケースが少なくありません。ある職場においてAさん、Bさん、Cさんの人間関係が問題となるとき、周りからみるとAさんの協調性の欠如が指摘されるような場合であっても、Aさんの主観からすればBさんやCさんの態度や言葉遣いにも問題があり、むしろ職場で疎外感を感じているのは自分だという主張も成り立ち得るからです。

 そこで会社としては第三者からみても揺るがない事実に対して書面で注意を行い、相当期間をかけて改善指導を継続していくことが求められることになります。このようなプロセスを積み重ねていくことで、解雇判断にあたっての社会通念上相当性が補強されていくと考えられます。

 なお、無期雇用の正社員ではなく、契約社員などの有期雇用の労働者を解雇する場合は、法律上の考え方が異なることになります。有期雇用の場合の解雇(契約解除)は、契約期間満了による雇い止めと契約期間中途における解雇に分かれますが、後者は「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」(労働契約法17条)とされています。

 この場合は、客観的合理性や社会通念上相当性に加えて、雇用を終了させざるを得ない特段の事情が求められ、具体的には労働契約締結時に明示された労働条件が異なっていた場合や、労働者本人の病気やケガ、家族の看病などで勤務が継続できないような例が該当すると考えられています。通常の解雇の要件とは異なりますので、この点は十分に理解しておきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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