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2022年6月16日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」127・大学研究者等の雇い止め問題

Q 大学で非常勤の研究者をしています。法律の規定によって来年3月までで雇い止めとなると聞いて戸惑っています。労働法ではどのような定めになっているのでしょうか。

koiwa1.png 非常勤職員などの期間の定めがある労働契約については、労働契約法18条で以下のような無期転換ルールが規定されています。同一の使用者との2以上の有期契約を通算して「5年」を超える労働者が使用者に申し込みをした場合は、期間の定めのない労働契約に転換することになりますが、大学研究者等については、5年を超える期間の研究事業への対応などの特殊事情も考慮されて、特別法である大学の教員等の任期に関する法律によって、「5年」は「10年」に読み替えることになっています(研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律でも同様の規定があります)。

 労働契約法のこの規定が施行されたのは平成25年(2013年)4月ですので、その10年後は令和5年(2023年)3月となります。したがって、無期転換権が発生する10年を迎える来春に、有期雇用の研究者などの雇い止めが深刻化することが懸念されています。

労働契約法
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。

大学の教員等の任期に関する法律
(労働契約法の特例)
第七条 第五条第一項(前条において準用する場合を含む。)の規定による任期の定めがある労働契約を締結した教員等の当該労働契約に係る労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十八条第一項の規定の適用については、同項中「五年」とあるのは、「十年」とする。


 労働契約法の条文上の規定である「5年ルール」についても、改正法が施行されて5年後の平成30年(2018年)に契約社員や期間工、有期雇用の派遣労働者などの雇い止めが社会問題となりました。「10年ルール」については特殊な専門職種の例外的な取り扱いのために社会的な関心は薄いといえますが、大学などの研究費の抑制や学生数の減少による大学の経営難などもあいまって、有期雇用の研究者の雇い止めに拍車がかかる可能性も指摘されています。

 日本では、一部の理工系の研究職などを除いて民間企業と大学などの研究機関との連携や相互交流によるキャリアアップの機会が乏しいといわれますが、国策としてリカレント教育の重要性が叫ばれ、各種のキャリアコンサルティングや助成金制度などが拡充される昨今、有能な研究者がその経験や能力を民間企業などでも発揮できるようなキャリアアップの方策も求められるのかもしれません。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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