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2022年6月23日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」128・腰痛による労災認定

Q ライン作業で同一場所に座って部品を組み立てている従業員が、腰痛になり1か月ほど入院することになりました。労災の適用になるのでしょうか?

koiwa1.png いわゆる腰痛の労災認定の可否については、外傷等災害性の原因による腰痛とよらない腰痛では認定基準が異なります。ご質問のケースは「災害性の原因によらない腰痛」ですから、腰に負荷のかかる作業態様であったかどうかや、その労働者の従事年数などから総合的に判断することになります。

 「災害性の原因によらない腰痛」とは、「突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取り扱う仕事など腰に過度の負担がかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの」をいいます。非災害性の腰痛の労災認定基準は、次の2つのパターンに分けて考えることになります。

(1)腰部に過度の負担がかかる業務に比較的短期間(おおむね 3か月から数年以内)従事する労働者に発症する腰痛
(2)重量物を取り扱う業務又は腰部に過度の負担がかかる作業態様の業務に相当長期間(おおむね 10年以上)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛


 今回のケースは(1)に該当するので、さらに以下の4パターンのいずれに当たるのかを検討するという流れになります。

①おおむね20キログラム程度以上の重量物又は軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務
②腰部にとってきわめて不自然ないし非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務
③長時間にわたって腰部の伸展を行うことができない同一作業姿勢を持続して行う業務
④腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務


 今回のケースでは③に該当する可能性が高いと考えられますので、「労働者の作業態様、従事期間及び身体的条件からみて、当該腰痛が業務に起因して発症したものと認められ、かつ、医学上療養を必要とするもの」については、労災認定が判断されることになります。

 なお、「業務上外の認定に当たっての一般的な留意事項」では、「腰痛を起こす負傷又は疾病は、多種多様であるので腰痛の業務上外の認定に当たっては傷病名にとらわれることなく、症状の内容及び経過、負傷又は作用した力の程度、作業状態(取扱い重量物の形状、重量、作業姿勢、持続時間、回数等)、当該労働者の身体的条件(性別、年齢、体格等)、素因又は基礎疾患、作業従事歴、従事期間等認定上の客観的な条件の把握に努めるとともに必要な場合は専門医の意見を聴く等の方法により認定の適正を図ること」とある点にも留意する必要があります。

 現場で腰痛を発症した労働者から相談を受けた場合は、まずは冷静に実情を把握した上で必要に応じて医師や労基署などとやり取りをすることになりますが、腰痛はその特殊性からほかの傷病などとは異なる認定基準があることを押さえておきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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