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2022年11月17日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」149・労使協定方式に関するQ&A第6集②

Q 労使協定方式に関するQ&A第6集が10月21日に更新されましたが、何が変わったのでしょうか。

 8月26日に公開された労使協定方式に関するQ&A第6集では16項目のQ&Aが記載されましたが、10月21日の更新で2つのQ&Aが追加されています。

問1-3 令和2年10月21日付け「労使協定方式に関するQ&A【第3集】」の問1-1において、今年度適用の一般賃金の額が前年度適用の一般賃金の額より下がった場合であっても、協定対象派遣労働者の賃金を引き下げることは派遣法や労働契約法上の観点から問題となり得ることとなっているが、今年度から新たに協定対象派遣労働者となる者についても同様の対応をする必要があるのか。

 令和2年10月21日付け「労使協定方式に関するQ&A【第3集】」の問1-1は、前年度の賃金の額と比較をした上で、現在雇用している協定対象派遣労働者の賃金の額を現行の金額から引き下げる場合についての回答を記載しているものである。

 したがって、今年度から新たに協定対象派遣労働者となる者については、協定賃金が当該年度に適用されている一般賃金の額と同等以上の額となっていれば、派遣法や労働契約法上、直ちに問題となるものではないが、既存の協定対象派遣労働者について前年度から賃金額を引き下げることは、待遇改善を目的とした派遣法の趣旨や労働条件の不利益変更との関係で問題となり得るものあること。

 なお、局長通達第3の4に定める合算による方法(以下「合算」という。)を用いて一般賃金の額と同等以上を確保している場合には、合算した賃金額の総額による比較を行うため、その内訳である「基本給・賞与・手当等」、「通勤手当」、「退職金」ごとに比較する必要はないものである。

 
koiwa1.png 一般賃金の額が前年度適用の一般賃金の額より下がった場合の取り扱いについて、新規採用者(新規で協定対象労働者となった者)に関しても、その年度に適用されている一般賃金の金額と同等になっていれば基本的には問題がないことがあらためて示されています。ただし、結果的に賃金額が引き下がる場合には、労働条件の不利益変更の問題が生じる点には十分に留意しなければなりません。

問4-8 いわゆる「選択制DC制度」を導入している場合、その掛金については「中小企業退職金共済制度等に加入する場合」の掛金として取り扱ってもよいか。

 いわゆる「選択制DC制度」は、従業員が一定額を企業型確定拠出年金の事業主掛金として充当するか、賃金として受け取るかについて、自らの意思で選択できる制度である。企業型確定拠出年金の事業主掛金として充当する場合は、事業主から拠出されることとなるため、「中小企業退職金共済制度等に加入する場合」の掛金として取り扱って差し支えないが、一方で、当該掛金部分は賃金とはみなされないため、実際に賃金として支給される額を用いて一般基本給・賞与等と比較する必要があることに留意されたい。


 「DC」とは、「確定拠出年金=Defined Contribution Plan」の略です。最近よく耳にする「iDeCo(イデコ)」の「DC」です。iDeCo(個人型確定拠出年金)は、運営管理機関や運用商品を個人で選択し、拠出金も原則として個人で拠出し、運営手数料も個人で負担します。一方、DC(企業型DC)は、運営管理機関を事業主が選び、その運用商品の中から選ぶ必要がありますが、拠出金は事業主が拠出し、運営手数料も原則事業主負担となります。

 今回のQ&Aでは、企業型DCの場合は、その掛金を事業主が負担するので、「中小企業退職金共済制度等に加入する場合」の掛金として取扱っても差し支えないという解釈が示されました。Q&Aで示された例を図示すると以下のようになります。

(例)選択制DC制度を導入している事業所において、 協定対象派遣労働者の基本給・賞与・手当等が20万円、事業主掛金として充当するか、賃金として受け取るか選択できる金額が3万円の場合

(1)協定対象派遣労働者が、3万円を事業主掛金として充当する場合 →20万円が一般基本給・賞与等と同等以上、3万円が一般退職金と同等以上である必要がある

(2)協定対象派遣労働者が事業主掛金を全く充当せず、23万円を賃金として受け取る場合 →局長通達第3の4に定める合算による方法を用いる場合は、23万円が「一般基本給・賞与等 + 一般退職金」 と同等以上である必要がある


 ただし、「別個に協定対象派遣労働者に退職金を支給する制度を有しており、退職金制度による方法を用いて一般退職金と同等以上を確保する場合は、23万円が一般基本給・賞与等と同等以上、かつ当該制度に基づいて支給される退職金の額が一般退職金と同等以上とすることも可能である」とされています。労使協定に関する労働局のチェックは年々厳しくなっていますので、できるかぎり早めに対応をとることが望ましいでしょう。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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