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2023年7月27日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」185・経産省のトイレ使用制限訴訟

Q 性的少数者のトイレ使用をめぐる経産省職員の訴訟について、最高裁の判断が下されました。企業の労務管理には、どんな影響が考えられるでしょうか。

koiwa1.png 戸籍上は男性だが性自認は女性の経産省職員が提起していたトイレ使用制限をめぐる訴訟について、7月11日に最高裁が国の対応は違法だとする判断を示しました。この訴訟は一審東京地裁で原告職員が勝訴、二審東京高裁で職員が逆転敗訴し、最高裁の判断が注目されていましたが、「女性トイレを自由に使用することについて、トラブルが生ずることは想定し難く」「不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらなかった」として、トイレ使用制限をめぐる国の判断を違法と判示しました。原告の主張が認容された理由としては、原告が職場において女性トイレを使用することへの意義を唱える女性職員はおらず、4年10か月に渡ってトラブルが起こったことがない上に、その間に調査や処遇の見直しが検討された形跡がないことなどが挙げられています。

 本件はあくまで経産省職員をめぐる個別の訴訟であり、もとより不特定多数の人が使用するような公共施設の使用について判断しているものではありませんが、最高裁が職場における性的少数者の待遇について踏み込んだ初めての判断であり、多様性が尊重される共生社会に向けた機運がさらに高まることで、企業の現場にもさまざまな間接的な影響がもたらされることが考えられるでしょう。本判決では、異例ともいえる裁判官全員による「補足意見」が付されていますが、法的な効果はないとはいえ、今後雇用の現場で配慮すべき具体的な対応への示唆を読み取ることができるため、概要には触れておきたいところです。以下の今崎幸彦裁判官(裁判長)の補足意見などは、かなり実務目線が含まれたものであり参考にできるでしょう。

こうした種々の課題について、よるべき指針や基準といったものが求められることになるが、職場の組織、規模、施設の構造その他職場を取りまく環境、職種、関係する職員の人数や人間関係、当該トランスジェンダーの職場での執務状況など事情は様々であり、一律の解決策になじむものではないであろう。

今後この種の事例は社会の様々な場面で生起していくことが予想され、それにつれて頭を悩ませる職場や施設の管理者、人事担当者、経営者も増えていくものと思われる。既に民間企業の一部に事例があるようであるが、今後事案の更なる積み重ねを通じて、標準的な扱いや指針、基準が形作られていくことに期待したい。


 今回の判決を受けて職場におけるトイレ使用をめぐる取り扱いが変更されるものではありませんが、性的少数者が自らが自認する性別のトイレの使用を希望した場合は一定の配慮が求められるといえ、本判決において、職場における他の職員に対する調査の実施や処遇の見直しの検討などの不徹底が指摘され、また一部の補足意見において、研修の実施による理解の増進や不安の払拭などの必要性が強調されている点などにも、留意していくことが求められるといえるでしょう。


令和3年(行ヒ)第285号 行政措置要求判定取消、国家賠償請求事件

令和5年7月11日 第三小法廷判決


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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