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2023年8月17日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」188・名古屋自動車学校事件②

Q 先日の名古屋自動車学校事件の最高裁判決を受けて、実務上留意すべきことはあるのでしょうか。

koiwa1.png 今回の判決で示された論点として特筆されるのは、同一労働同一賃金の判断の要素である、①業務内容、②業務の責任、③配置の変更範囲、④その他の事情のうち、労使交渉に関する事情などが含まれるとされている④について、具体的な労働条件に関する合意の有無や内容といった結果だけではなく、労使交渉自体の経緯についても勘案すべきだというと解釈に触れられている点です。最高裁は、以下のような表現で高裁の審理の内容を批判し、正社員と嘱託社員との間の基本給の金額の相違について、基本給の性質や目的を十分に踏まえることなく、労使交渉の経緯や結果を十分に考慮しないまま、その一部が「不合理と認められる」とした高裁の判断は、解釈適用を誤った違法があるとしています。

 上告人は、被上告人X1及びその所属する労働組合との間で、嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたところ、原審は、上記労使交渉につき、その結果に着目するにとどまり、上記見直しの要求等に対する上告人の回答やこれに対する上記労働組合等の反応の有無及び内容といった具体的な経緯を勘案していない。


 賞与や一時金についても同様であり、それらの性質や支給の目的を十分に検討することなく、労使交渉の経緯や結果について適切に考慮しないまま「不合理」とした高裁の判断は、以下のような点を理由に解釈適用を誤った違法だとしています。

 被上告人らに支給された嘱託職員一時金は、正職員の賞与と異なる基準によってではあるが、同時期に支給されていたものであり、正職員の賞与に代替するものと位置付けられていたということができるところ、原審は、賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的を何ら検討していない。


 今回の判例では、労使交渉の結果はもちろんのこと、そのプロセスについても十分に考慮することが求められることが判決文において再三確認されているため、労働組合との交渉にとどまらず、個別の労働者への説明や相談、合意などにあたっても、相当の現実的な対応や会社としての誠意を払っていくことが求められるといえるでしょう。また、就業規則や給与規程などにおける賞与や一時金の規定や社内における取り扱いなどが問われることになり、これらの点は十分に意識して今後の実務対応にのぞんでいく必要があるといえます。定年後再雇用のテーマをめぐっては、今回の最高裁の判断によってさまざまな影響が考えられ、差し戻しとなった高裁の判断も注目されますが、今後の動きに注視していきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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