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2023年11月30日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」203・労働条件明示のルール変更について①

Q 令和6年4月からの労働基準法改正で労働条件通知書に明示する項目が追加されますが、具体的にはどのような内容でしょうか。

koiwa1.png 労基法施行規則と「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」の改正によって、令和6年4月1日から労働条件の明示事項などのルールが変更されます。具体的には、①就業場所・業務の変更の範囲の明示、②更新上限に関する事項、③無期転換に関する事項の3点です。①は有期雇用労働者を含むすべての労働者が対象となり、②と③は有期雇用労働者のみが対象となります。

【令和6年4月からの改正点】
①就業場所・業務の変更の範囲の明示
 労働契約締結および有期労働契約更新にあたって、雇い入れ直後の就業場所・業務の内容に加えて、就業場所・業務の「変更の範囲」の明示が義務化

②更新上限に関する事項
 有期労働契約の締結および契約更新にあたって、更新上限の有無と内容の明示が義務化(更新上限を新設・短縮する場合は、あらかじめその理由を説明)

③無期転換に関する事項
 「無期転換申込権」が発生する有期労働契約の更新にあたって、無期転換を申し込むことができる旨、無期転換後の労働条件の明示が義務化(通常の労働者とのバランスを考慮した事項の説明に努める)


 「変更の範囲」とは、労働契約の期間中における就業場所や従事する業務の変更の範囲のことをいい、採用時の条件にかぎらず今後の「見込み」も含みます。したがって、就業場所や業務に限定のない労働契約の場合は、今後従事する可能性のあるすべての就業場所・業務を記載する必要があります。
 「無期転換申込権」とは、有期労働契約が5年を超えて更新された場合に、労働者からの申し込みによって、労働契約が有期から無期に転換されるルールのことをいいます(労働契約法18条)。労働者が使用者に申し込みをすると、法律上当然に無期の労働契約が成立することになります(形成権)。

 労働契約の締結にあたって、使用者は労働者に労働条件の明示を行わなければなりませんが、①~⑥(昇給は除く)は必ず書面の交付を行い、⑦~⑭は使用者が定めを設ける場合に明示する必要があります(労基法15条)。

①労働契約の期間
②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
③就業の場所および従事すべき業務
④始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等
⑤賃金、昇給
⑥退職
⑦退職手当
⑧臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、
賞与及び最低賃金額等
⑨労働者に負担させるべき食費、作業用品その他
⑩安全及び衛生
⑪職業訓練
⑫災害補償および業務外の傷病扶助
⑬表彰および制裁
⑭休職


 改正後は、③就業の場所および従事すべき業務に「変更の範囲」を追加するほか、②期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関連して、更新上限の有無や内容などを明示することになります。書面の交付は労働者が希望した場合はファクシミリや電子メールの送信によることもできますが、労働契約の重要事項の確認のため圧倒的に書面による場合が多いのが現状です。令和6年4月からの改正に確実に対応するために、早期の準備を心掛けたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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