Q 事業主が新たに事業所を設立して役員報酬を受け取ることになった場合、社会保険の加入手続きはどのようにしたらよいでしょうか。
A 質問のような二以上の事業所から報酬を受ける場合の社会保険の手続きについては、古くて新しいテーマだといえ、事業主が関連会社や子会社など新たに事業所を設立して報酬を受けるケースを中心に、今でも日常的に質問などがあるテーマだといえます。このような場合は、当然のごとく新たに設立した事業所でも社会保険の加入手続きが必要であり、具体的には、新事業所において「新規適用届」の手続きを行い、事業主の「資格取得届」を提出することになります。
この場合、事業主は従来から報酬を受けている事業所と新たに報酬を受けることになった事業所の双方で社会保険に加入することになり、このことを「二以上勤務者」といいます。「二以上勤務者」については、被保険者本人が、主となる事業所を選択するための「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出しなければなりません。協会けんぽにおいて新たな事業所を選択事業所とする場合は、被保険者整理番号が新たな番号へと変更となります。マイナ保険証を所有している場合は問題ありませんが、そうでない場合などは資格確認書の発行が必要となるため、この交付手続きに時間を要することになるため、注意が必要です。
「二以上勤務者」の保険料額の計算については、それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額を基礎として標準報酬月額を決定することにより行います。標準報酬月額に社会保険料率、健康保険料率を乗じて保険料額を計算して、それぞれの事業所で受ける報酬月額に基づいて按分することで具体的な保険料額を決定します。この結果に基づいて、給与計算の手続きの際に適正に被保険者負担分の保険料額を控除し、事業所として納付手続きを行なっていくことになります。
昨今では、事業主が新たに事業所を設立して複数の事業所から報酬を受ける場合に「二以上勤務者」の手続きが必要となることを認識していないようなケースはほとんどないといえますが、具体的な手続きの方法に問題があったり、保険料額の控除が適正に行われていないような例もまれにみられますので、十分に注意していきたいところです。
複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き(日本年金機構)
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)