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2025年11月13日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」302・雇用形態別の採用フロー

Q 新たな人材を採用したいと思うのですが、正社員、契約社員、パートタイマーなどによって、どのような違いがありますか。

正社員の採用フロー

koiwa24.png 日本の労働法では「正社員」という概念はありませんが、通常は特段の断りなくフルタイムの求人を出す場合は正社員という扱いになり、雇用条件は採用から定年までの無期契約となります。求人から採用・入社までのフローについては、基本的なルールとしては正社員と非正規社員との間に違いはありませんが、正社員の場合は会社全体の経営計画の中で採用の規模や条件を決定するのが一般的です。

 正社員は、単に長い時間、期間をフルタイムのメンバーとして働いてもらうという意味だけではなく、従事する業務についての管理監督的な責任や、企業や部署全体としての規律や機密を保持する役割、将来に向かって基幹人材としてキャリアを積み上げていく期待などを担うことになるため、採用する側としても、応募者が外形的な採用条件に合致するかどうかだけではなく、本人の仕事への意気込みや性格上の傾向などの定性的な要素、職業人として具体的にどのような中長期的なキャリアを志向するかといった価値観や人生設計についても、多面的かつ総合的に判断することが求められます。

 そのため、応募者について複数回の面接や筆記試験、適正検査などを実施して、できるかぎり複眼的に適正や資質を見極めるほか、本人から課題やレポート、ロールプレイングなどのアウトプットを提出、実践してもらうことなどを通じて、具体的な分野や条件ごとの現場対応力を判断していくことになります。

契約社員・パート・アルバイトの採用フロー

 正社員に対して非正規雇用と称される雇用形態の代表が、契約社員、パートタイマー、アルバイトです。パートタイマーが「1週間の所定労働時間が、同じ事業所で働く通常の労働者(正社員)よりも短い労働者」(パートタイム・有期雇用労働法)と規定されている以外は法律上の要件はありませんが、一般的には契約社員は有期雇用労働者、アルバイトは勤務時間が短い学生、主婦層の労働者のことを指します。

 契約社員は、本来はフルタイムで従事すべき業務のうち、正社員に準じた責任やポジションを担わせることを想定しているため、正社員の採用のフローのうち、複数回の面接や学科試験、適性検査などを簡略化して実施されることが多いです。即戦力として現場で活躍することが期待されるケースが多いことから、状況によっては所属長などの裁量で機動的に採用・入社が決定されることになります。

 パートやアルバイトは、文字通り短時間のパートについて補助的業務を担うことになるため、基本的には正社員のような採用フローを実施することはなく、業務量の増加にともなう増員、退職者に対する補充などをタイムリーに行うことになります。ここでは、日々紹介に代表されるような即断即決型の採用・入職が求められ、エントリーされた応募者について、最低限の業務適性が確認できれば採用する方向で判断されるケースが多いといえます。

派遣社員・請負・委託契約の採用フロー

 派遣社員、請負・委託契約は、いずれも会社が労働者として直接雇用する形態ではなく、あくまで会社の外部との契約関係であり、本来は「採用」の類型に含まれるものではありません。したがって、会社が外部から業務に従事してくれる戦力をオーダーするという視点から、直接雇用の労働者の採用フロー以上に、期待すべき役割や業務の範囲を明確に設定する必要があります。

 派遣社員については、必要とする労働力を派遣会社に所属する労働者に担わせる形態であり、自社が直接労働者を選定することは許されないため、現場のニーズに適合した派遣会社の選定と派遣会社の担当者との円滑なコミュニケーションがポイントとなります。派遣会社の選定にあたっては、対外的な知名度や実績だけで評価することなく、実際の現場における業務や風土とのマッチングや、担当者との仕事観などの相性などについても、冷静に判断することが大切です。

 請負・委託契約は、あくまで労働者ではなく個人事業主との間の役務提供契約ですから、採用部門ではなく業務部門や購買部門などが対応することも少なくありません。労働者ではない以上は、依頼する会社から独立して業務処理するだけの経験・能力・体制などが求められることはもちろんですが、会社が業務上の指示をしたり、労働者と同様の扱いをすることによって、請負・委託契約の内容が否定されるケースがある点にも注意しなければなりません。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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