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2025年12月 4日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」305・通勤手当の非課税限度額の引き上げ

Q 通勤手当の非課税限度額が引き上げられたと聞きましたが、どのような対応が必要ですか。

koiwa24.png 11月21日に所得税法の施行令が改正され、通勤手当の非課税限度額の引き上げが実施されました。年の瀬が近づいて唐突な改正が発表されたように思われるかもしれませんが、今回の改正は、8月7日に令和7年人事院勧告で「自動車などの交通用具使用者に対する通勤手当額の引き上げ」が勧告されたことが契機となっています。地味な改正内容ですが、「4月1日」に遡及されて適用されることから、実務への影響はそれなりに大きいと考えられます。

 具体的には、「令和7年4月1日以後に支払われるべき通勤手当」について適用され、以下の通勤手当については適用されません。

① 令和7年3月31日以前に支払われた通勤手当
② 令和7年3月31日以前に支払われるべき通勤手当で同年4月1日以後に支払われるもの
③ ①または②の通勤手当の差額として追加支給されるもの

 マイカー通勤者に対して支給される通勤手当への非課税限度額が引き上げられ、片道10km以上の限度額が増額されたことで、労働者の所得税や住民税の計算に影響し、結果として一定の税額が減少し、手取りが増加することになります。片道10km未満の通勤や公共交通機関による通勤の場合には影響がありませんが、該当する労働者にとっては関心が大きいといえるでしょう。

 改正の適用は4月1日に遡って適用されるため、この間の通勤手当にともなう所得税などは新たな基準に基づいて計算する必要があります。ただし、実務的には給与計算を再計算して労働者に還付を行う必要はなく、年末調整で源泉所得税の過不足精算を行う際に課税誤差を調整して労働者に還付することになります。

 例えば、片道20kmのマイカー通勤で、通勤手当が毎月2万円支給されているような場合は、課税額は月あたり600円減少することになります。

 改正前(非課税限度額:1万2900円)は、課税対象となる通勤手当:2万円-1万2900円 =7100円であり、給与総額に7100円分が加算され、所得税が計算されていました。

 改正後(4月1日以降支給分、非課税限度額:1万3500円)は、課税対象となる通勤手当:2万円-1万3500円 =6500円であり、これまで課税されていた600円は新たに非課税となります。

 年末調整での精算は、4月〜10月(7ヵ月分)に課税されていた通勤手当:600円 × 7ヵ月 = 4200円となり、給与総額から4200円を差し引いて再計算し、差額を反映することで源泉徴収税額が減額されることになります。

 今回の改正にともなって、就業規則の通勤手当の規定をチェックする必要があります。通勤手当について、「所得税法上の非課税限度額を通勤手当として支給する」という規定になっている場合は、要注意です。この場合、改正によって通勤手当の差額支給が必要となるケースもあります。このような例にかぎらず、今回の改正を就業規則、給与規程の見直し(変更)の機会ととらえたいものです。

 通勤距離が長い労働者が多い場合には、非課税限度額が変わることによる手取り額への影響があるため、労働者への事前説明のための周知資料や説明会の開催なども検討したいものです。年末調整で還付を行う必要がある今年は、事前説明や質問対応などを確実に実施することで、労働者の安心につなげたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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