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2026年2月26日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」316・多様性の労務管理の必要性

Q 多様性の労務管理の必要性と今後の課題の概要について、教えてください。

koiwa24.png 企業が直面している労務管理上の課題のひとつに、「人材の多様化」への対応とそれにともなう変革があります。少子高齢化の進行やグローバル化の加速、働き方の多様化といった社会的な変化は、単に採用や人材配置の課題にとどまらず、組織の労務管理そのもののあり方にも大きな影響を与えています。労務管理にあたって、なぜ今、多様性のテーマが喫緊の課題とされるのか、その意義と実務上のポイントを簡単に整理します。

 そもそも「多様性(Diversity)」とは、性別、年齢、国籍、学歴、職歴、価値観、ライフスタイル、能力など、さまざまな属性や背景を持つ人材が共存しながら働く状態のことを指します。以前は「女性活躍」「シニア雇用」「外国人労働者」といった個別のテーマごとに語られることが多かったのですが、現在ではそれぞれのテーマのつながりも意識して包括する概念として捉えられるようになっています。

 多様性の背景には、人口構造の変化や働き手の価値観の変容、生活と仕事の両立ニーズの高まりなどがあり、政府や企業が多様性の推進を掲げるのは、単に社会的要請にとどまらず、組織の持続的成長に直結する経営戦略でもあるからだといえます。実際に、日本企業の多くが多様性の推進を経営課題のひとつと位置付けており、多様性を組織に取り入れ、複眼的な視点や経験を活かすことで、組織に以下のようなメリットをもたらすことが期待されています。

①イノベーションの創出
 性別や国籍、専門領域が異なるメンバーがフラットな立場で協働することで、従来の発想にとらわれない新しいアイデアが生まれやすくなり、異質な属性や文化を共有することで、より結束が高いチームを目指すことができるようになります。

②組織の柔軟性と適応力の向上
 多様な人材が活躍する組織は、企業を取り巻くさまざまな環境変化に柔軟に対応する適応力が高くなる傾向があるとされ、多様な価値観や文化を包摂しながらタブーなく意思決定を行う過程で、リスク管理や選択肢の幅が広がると考えられます。

③人材確保・定着の強化
 少子高齢化と労働力人口の減少に拍車がかかる中で、人材確保はあらゆる企業に共通の経営課題とされますが、多様な働き手を受け入れ、働きやすい環境を整えることで、採用競争力の強化だけでなく、定着率向上にもつながることが期待されます。

 多様性の労務管理によって、多様な社員が公平に評価され、キャリア機会が与えられることが目指されます。「同一労働同一賃金」の原則を踏まえつつ、待遇や評価における不合理な差異がないようにすることで、コンプライアンスに準拠した、合理的な労務管理を共通ルールとすることができます。
 また、多様な人材が安心して自分自身の価値観を持てるインクルージョン(包摂)の風土が醸成されることで、新人採用の質の向上が期待できるだけでなく、管理職の意識改革やコミュニケーションの活性化、ハラスメント防止策の徹底などが、一体として加速していくことになります。
 さらには、管理職自身が多様性の意義を理解し、自ら率先して実践することで、多様なメンバーをまとめ、各自の成長や成果につなげ、キャリアアップを引き寄せるスキルが培われ、従来の管理手法を超えた異文化理解やバイアスへの気づきなどが実現するなど、さまざまな効果が期待できます。

 近年、日本の労働法制や社会保障制度は多様性・働き方改革を強く意識した方向に進んでおり、育児・介護休業法の見直し、同一労働同一賃金の強化、ハラスメント防止の法的義務化など、多様な働き手の権利保護と公正な労務管理がコンプライアンス面でも進展しています。
 多様性の労務管理はもはや選択ではなく、企業が持続的に成長し、社会的責任を果たす上で必須のテーマであり、法令準拠や制度導入にとどまらず、理念として組織文化に根付かせることで、多様な人材が互いの違いを尊重し合いながら共に成果を創出する職場が、企業価値を高める力そのものになると考えられます。

 蛇足ですが、筆者も最近、多様性・包摂性の労務管理を目指すささやかな講座を立ち上げ、微力ながら社労士などの士業や企業内の担当者の方との学び合い、高め合いの場づくりに取り組んでいます。先の長いテーマではありますが、それぞれの立場でできることに邁進していきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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