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2026年4月16日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」323・「やる気がない」部下への対処法

Q 職場で「やる気がない」部下に苦慮しています。一般的にどのような対処が考えられるでしょうか。

koiwa24.png 業種業態を問わず、職場で「やる気がない」部下への対応に悩む例が少なくありません。常に指示待ちに終始し、必要最低限の仕事しかこなさず、誰の目から見ても明らかに意欲を失っているような姿勢に、頭を抱えてしまうものです。ただ、こうした部下に対しては、かつてのような「気合と根性」による指導はもはやまったくのタブーであり、安易な叱責などはパワーハラスメントと受け取られるリスクも十分にあるといえます。

(1)なぜ「やる気がない」のか?
 近年のマネジメント論では、モチベーション低下は「個人の問題」というよりも、「組織や上司との関係性の中で生じる現象」として捉えられており、業務内容とのミスマッチや評価への不信感、失敗への恐れ、さらには職場の人間関係や私生活上の悩みなど、複合的な要因が存在すると考えられます。
 したがって、「やる気がない」という表面的な現象をそのまま受け止めるのではなく、「なぜそうなっているのか」という原因に目を向けることが大切です。例えば、過去に提案が何度も否定され、自信を失っているケースでは、本人の意欲の問題ではなく、経験の積み重ねによる学習的無力感が影響している可能性があります。また、「頑張っても評価されない」という認識がある場合には、組織の評価制度やフィードバックの在り方そのものが問われるべきでしょう。

(2)放置することのリスク
 「やる気がないなら放っておこう」という対応は、組織にとって最も危険な選択です。意欲の低い社員を放置すると、周囲の社員への悪影響が芽生え、真面目に働く社員の不公平感がつのり、組織全体のモラルの低下や閉塞感を招きます。
 さらに、法的リスクも懸念されます。業務指示を怠り、報告義務を課さず、適切な教育機会を与えないまま「能力不足」として解雇や降格を行うと、過去の裁判例においても会社側に厳しい判断が下されている例が圧倒的に多いです。また、不適切な配置や能力・適性を無視した業務命令などについても、裁判例においても使用者の責任が認められる場合があり、「適切に働ける環境を整えなかった責任」と評価されることがあります。会社は、労働者がその能力を十分に発揮できるよう環境を整える「配慮義務」を尽くし、必要な改善の機会を与えることに努めていく必要があるといえるでしょう。

(3)個別対話の重要性
 やる気のない部下に対して「やる気を出せ」と叱咤することは逆効果であり、自己効力感を低下させ、無力感を強めてしまうリスクがあるだけでなく、部下の防衛的態度を招くことで関係を悪化させる要因ともなります。
 大切なのは、「対話の質の向上」です。部下が安心して本音を話せる関係性の構築を前提として、上司は「指導する人」から「理解する人」へとスタンスを転換し、まずは「聞き役」に徹する姿勢が求められます。
 ここでは、担当業務のチーム全体の中での必要性や意義について共有し、全体の中での自分の立ち位置を認識することで、責任感を芽生えやすい状況を整えます。そして、いきなり高い成果を求めるのではなく、足元の短期間で達成可能な小さな目標を設定し、それをクリアすることで自信を回復させ、成功体験を積ませることを狙いとします。モチベーションは「結果」ではなく、「プロセスの中で醸成されるもの」であるという視点を持つことが重要だといえます。
 対話においての留意点としては、「最近の若手は・・・」「どうせ言っても無駄だ」といった上司側の「アンコンシャス・バイアス」を排除することです。アンコンシャス・バイアスの多くは、上司本人がその存在に気づいていないだけでなく、むしろ善意や良識と思い込んでしまっている例も多い点に特徴がありますが、結果として部下の意欲を削いでしまっていることがとても多いといえます。

(4)ハラスメントと指導の境界線
 「厳しく指導するとハラスメントになる」と思い、積極的な指導に後ろ向きになる管理職も多いですが、もちろんあらゆる厳しい指導がハラスメントになるわけではなく、業務上必要な指示や注意はハラスメントには該当しません。ここでのポイントは、「人格を否定しないこと」「業務上の必要性を客観的に説明すること」です。
 例えば、「君はやる気があるのか!」と感情的・抽象的な問い詰めをするのではなく、「現在の進捗は期限に対して〇%遅れている。このままでは後工程にこれだけの影響が出るが、何が課題か?」という事実に即した対話をします。
 会社としては、半期に一度の評価だけでなく、月次の1on1(面談)を制度化し、評価制度やフィードバック体制の強化をはかることで、社員の意欲の減退を早期に察知し、必要な指導や配置転換などの適切な措置に先手を講じることができます。
 万が一メンタルヘルスの不調が原因である場合には、産業医との連携や休職制度の適用など、ルールに基づいた適切なケアが求められますが、この場合でも、「やる気のない部下」を「困った存在」として排除するのではなく、組織の鏡として根気よく中長期目線の対応を心掛け、まずは職場のコミュニケーション不足や、役割分担の不備などを映し出していないか疑う視点を大切にしたいものです。

 部下の意欲を引き出すマネジメントは、決して特別なスキルではなく、相手を理解し、環境を整え、成長を支援する、というシンプルな営みの積み重ねによって、組織全体の活力を高めていくことではないかと考えられます。このような視点を大切にしつつ、日々の職場運営や部下育成などに取り組んでいきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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