Q 職場では、周りに気遣い過ぎて報われないという人を目にしますが、一般的には、どのように対応すべきなのでしょうか。
A 「もっと自分のことを優先してもいいのではないですか」。人事労務の相談を受けていると、そんな言葉をかけたくなる人に出会うことがあります。誰よりも周囲に気を配り、頼まれごとはできるだけ断らない。忙しい同僚がいれば自然と手伝い、職場でトラブルが起きれば真っ先に調整役を買って出る。会議では場の空気を読み、誰かが発言しづらそうにしていればフォローに回る。こうした「細やかな気遣い」ができる人ほど、次第に過度な負担を抱え込み、「自分ばかりが損をしている」「どれだけ周りに配慮しても正当に評価されない」という強い徒労感や慢性的な疲弊に苛まれるケースが少なくありません。
最大の理由は、「気遣いや配慮」という業務の可視化の難しさにあります。トラブルを未然に防ぐための事前フォローや、他者の仕事の穴埋めといった「予防的・裏方的な行動」は、結果として「何事も問題なく進んだ(=標準の状態)」と見なされがちです。その結果、本人のタイムロスや精神的コストは確実に増えているにもかかわらず、数字や成果物として表に出にくいため、人事評価や周囲からの感謝に結びつきにくいという構造があります。
もちろん、気遣いそのものは職場に欠かせない能力です。相手の立場を理解し、先回りして行動できる人がいるからこそ、組織は円滑に機能します。近年は「心理的安全性」が重視されるようになりましたが、それも互いを思いやる姿勢があってこそ成り立つものです。ただし、気遣いと自己犠牲は似ているようで本質的に異なります。労務相談を通じて感じるのは、「気遣いができる人」ほど、自分の限界に気づくのが遅いということです。周囲が困っている様子を見ると、自分の疲れよりも相手を優先してしまう。その結果、心身の疲労が蓄積し、ある日突然、出勤できなくなったり、仕事への意欲を失ったりするケースも少なくありません。
では、どうすればよいのでしょうか。具体的な処方箋としては、「小さなNO」を言えるようになること、そして自分が行っている「見えない仕事」を言語化することが挙げられます。自分の状況を率直に伝えることで自分の責任を適切に管理し、自分が担っている役割を適切に共有することは、組織全体の業務を見える化するためにも必要なことだと考えられます。
①「断る」のではなく「境界線(条件)」を提示する
頼まれごとや配慮の依頼に対し、すべてを飲み込む必要はありません。「引き受けるか断るか」の二者択一ではなく、「〇時までなら対応可能です」「現在抱えている〇〇業務の優先度を下げていただけるなら対応できます」といったように、自分のキャパシティを守るための境界線を明確にした「条件付きの承諾」を行う習慣をつけましょう。
②気遣いを「具体的なプロセス」として可視化する
自発的に行ったフォローや事前調整も、立派な業務プロセスの一部です。日報や週報、定期的な面談(1on1)などの場で、「〜の進捗が遅れていたためフォローを実施」「〇〇のリスク回避のため関係部署と事前調整を実施」といった形で、事実ベースで業務履歴に残すことが重要です。見えない貢献を「見せる化」することは、正当な評価を得るための自己防衛策です。
③「見返りへの期待」を整理し、言葉で伝える
「これだけ察して動いたのだから、相手も配慮を返してくれるはず」という期待は、残念ながらすれ違いを生みやすく、双方にとってストレスになります。「気遣いは自分が選択して行ったこと」と割り切るか、あるいはサポートが必要な場面では「察してもらう」ことを諦め、「ここを手伝ってほしい」と明確に言葉(言葉によるコミュニケーション)にして依頼することが大切です。
周囲への気遣いができる能力は、本来であれば組織の価値を高める大きな強みであり、賞賛されるべき姿勢です。ただし、その気遣いによって、自分自身が疲れ切ってしまっては、本末転倒と言わざるを得ません。相手を思いやることと同じくらい、自分自身の心身を大切にすること。その両方があってこそ、持続可能な働き方が実現します。周囲への優しさを失わず、同時に自分も大切にできる人。そのようなバランス感覚を身につけることが、これからの職場で長く活躍し、真に報われる人材への第一歩なのではないでしょうか。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)






















