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2013年1月 1日

<新春特別寄稿> 慶応大学大学院商学研究科教授 鶴 光太郎さん

新たな成長に向けた働き方・人材改革(上) 「2050年に向けた雇用人材戦略」

 昨年末、12政党が政権を争う異例ともいうべき衆議院議員選挙が終わり、年始から本格的な政権運営が始動することになる。過去5年の日本経済を振り返ってみれば、2008年のリーマン・ショックを契機とする世界経済・金融危機、また、その後、回復基調が明確になっていた矢先での東日本大震災の勃発、さらにはその間、政権交代を挟むなど、正に波乱万丈だった。さまざまな困難を乗り越え、長期的な視点に立ち、冷静に日本経済の将来を考えるべき地点にようやくたどりついたといえる。本稿では、日本が新たな成長に向けて取り組むべき課題として最も重要と考えられる働き方・人材改革について検討してみたい。

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is130100.jpg 長期的な視点に立つということであれば30年後、40年後の日本経済、世界経済の具体的な姿を、不確実性は承知しつつも具体的に描く努力が必要だ。筆者が研究主幹の1人として参画した「グローバルJAPAN 2050年シミュレーションと総合戦略」(経団連21世紀政策研究所)によれば、2050年には中国のGDP(国内総生産)は日本の6~7倍(購買力平価換算)、1人当たりGDPでは韓国に追い越されるなど、世界における日本の相対的な地位は低下することになる。

 これは、なんといっても高齢化・人口減少(50年で人口は1億人を割り込む)で労働力が減少する影響が大きい(50年までに2000万人以上減少)。30年以降の実質経済成長率への労働人口減の寄与は年率マイナス1%弱に達する。生産性や資本の成長への寄与が今よりもさらに高まらない限り、プラスの経済成長を実現するのもおぼつかない厳しい状況がみえてくる。

 50年の日本の姿から振り返れば、何が重要であるかは既に読者にも明らかであろう。人口は減少しても労働参加を高め、いかに労働力人口の減少を抑えるか、また、少ない働き手でいかに効率よく生産活動を行うかという点である。つまり、資源のない日本を支える究極のカギは人的資源の「量」と「質」の確保と強化である。

 将来に備えて、仕事か育児かの選択、定年後は悠々自適といった20世紀型概念を根本的に改め、若者、女性、高齢者、外国人をはじめ、誰もが頑張り、能力を高めながら働くことのできる環境を早急に整えることが必要だ。

 過去数年の経済政策論議で目に余ったのは、もっぱら政府のムダ遣いや日銀の金融政策を批判し、そうした問題が解決しさえすれば日本経済の問題はすべて霧消してしまうかのような主張が横行したことである。こうした「犯人探し」「他力本願」的な議論が我々自身の問題、つまり「人」の問題に正面から向き合うことを妨げていたと思われる。

女性、高齢者、外国人がカギになる

 こうした問題意識の下で、本稿ではまず、人口減少社会に立ち向かうための人材の「量的」確保を考えてみたい。第1は、女性・高齢者の労働参加促進、働き続けられる環境整備である。日本の場合、女性の労働参加率が30~40代で低くなるという傾向が海外と比較しても強く、典型的なM字型になっている(上記報告書 42ページ参照)。

 北欧といわずとも、オランダ程度まで労働参加率を高めることが目標になりうる。オランダでは勤め先でライフサイクルに合わせ、雇用者の希望で短時間とフルタイムの選択を行うことが認められている。

 正社員のまま短時間労働に切り替えることができれば、女性のキャリアの継続性や子育て支援としても大きな効果が期待される。日本での制度導入を検討すべきだ。また、高齢者はこれまで培った経験や能力を若い世代に伝授していく、地域社会へ役立てていくという意味で、報酬よりもやりがいを重視した就労環境の整備が重要である。

 第2は、海外からの高度人材の積極的受け入れである。外国人の受け入れは社会的な問題も伴うため、慎重な対応が必要であることは言うまでもないが、長期的には労働力不足の分野には大胆な受け入れを考えなければならないところまで追い込まれるであろう。その際、受け入れの基準として日本語能力を重視していくことも検討すべきだ。

 次回は、人材の意欲と能力を高める働き方(未来に開かれた働き方)について。


鶴 光太郎氏(つる・こうたろう)1960年、東京都出身。 84年東大理学部卒、英オックスフォード大学経済学博士。経済企画庁(現内閣府)に入庁後、OECD経済局、日銀金融研究所などを経て99年に退庁、2001年から経済産業研究所上席研究員として活躍。12年4月から慶応大学大学院商学科教授として現在に至る。著書に『日本の経済システム改革』『非正規雇用改革』(共著)など。

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