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2014年4月28日

「成果型賃金制度」は悪い制度か

再び「残業代ゼロ」だけが独り歩き?

 政府の産業競争力会議がこのほど提起した「労働市場改革とルール・仕組みの再構築」が議論を呼んでいる。その中の「新たな労働時間制度の創設」が7年前の「ホワイトカラー・エグゼンプション」とほぼ同じ内容だからだ。「労働時間でなく、成果で賃金を払う」という基本コンセプトに対して、労組などは「残業代不払い制度」と批判している。この構想、本当に悪い制度なのだろうか。(報道局)

 同会議の提案によると、狙いは「多様で柔軟な働き方を可能にするため」で、イメージとして(A)労働時間上限要件型(B)高収入・ハイパフォーマー型、の二つに分けている。Aタイプは、主に育児や介護などで毎日の出勤やフルタイム勤務が困難なベテラン社員が対象で、Bタイプは主に年収1000万円以上の専門職。

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今年のメーデーでは「成果型」批判も目立った
=4月26日

 どちらも、職務内容、成果目標、報酬額、労働時間枠などを事前に企業側と協議し、本人の希望選択と労使合意で決める。導入には一定の試行期間を設け、当初は過半数組合のある大企業に限定、労働基準監督署に届け出る。これが提案の概要であり、この限りでは「柔軟な働き方」を支援する制度のようにみえる。

 しかし、労組側によれば、とんでもない話。仮に成果が出なければ、残業代なしの深夜労働を余儀なくされ、心身の健康に害を及ぼす。「本人の合意」が必要と言っても、会社と個人の力関係を考えれば、ターゲットにされた社員は拒否できない。結局、会社側が「追い出したい」社員が狙われ、引いては社員全体の労働条件の悪化につながりかねない。ブラック企業を増やす温床にもなる、というものだ。確かに、経営者によってはその可能性は否定できない。大手メディアも「残業代ゼロ、長時間労働の歯止めなし」(朝日)、「成果主義賃金の危うさ」(毎日)など批判的な論調が多い。

 では、どちらの主張がサラリーマンの実態に即しているのだろうか。

 労働基準法が定めている労働時間制度は通常、「1日8時間、週40時間」を法定労働時間とし、その例外として変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制(専門業務型、企画業務型)などを弾力的な制度として認めている。昨年は弾力制度で就労する人が55%に上り、通常制度で就労している人を上回っている。

裁量労働制の社員は満足度が高い

 労働政策研究・研修機構が昨年10月、裁量労働制で就労している4000人余りの社員に対してアンケート調査(速報)をしたところ、「満足」が33%、「やや満足」が38%の計71%を占め、「不満」「やや不満」を合わせた28%を大きく上回った=グラフ

is140429_2.png その理由として(複数回答)、「仕事がしやすくなった」(79%)、「能力の有効発揮に役立つ」(78%)を挙げた人が多く、「労働時間が短くなった」(54%)は「あまり期待通りではなかった」(45%)と拮抗した。過半数が残業代相当分の「特別手当」をもらっており、金額のバラつきはあるが月平均7・7万だった。

 これらの結果は、裁量労働制で働いている社員自身の満足度がそこそこ高いことを示しており、「成果型」が反対派の主張するような「労働条件の改悪」には必ずしもならないことを示唆している。今年1月、労働政策審議会の労働条件分科会で公表されたところ、労使委員とも「意外な結果」と受け止めていた。

 日本のサラリーマンの労働生産性の低さは国際的に有名で、ダラダラ残業や付き合い残業を当然のように受け止めてきた労働者自身にも問題はなかったか。新聞テレビの多くの正社員記者は裁量労働制の下で仕事をしているが、その延長線上にある「成果型」を頭から批判するのは自身の働き方を否定するに等しい。労使ともに、「成果型」の試験導入を通じて残業に対する意識を根本から変えるきっかけにすれば、大きな“成果”が上がるはずだ。

 また、非正規社員の多くは勤務時間や時給などは契約で決まっていることから、「成果型」の是非は正社員に特化した問題と言える。成果が出ても出なくても、非正規の賃金は低く、正社員の賃金は高いまま固定されている現状は、「賃金体系の違い」を踏まえてもなお合理性に乏しいことは否定できないであろう。成果の出せない正社員と、成果を挙げている非正規社員の“入れ替え”を望む非正規社員は多い。

 7年前の安倍政権は「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入を図ろうとして失敗したが、当時は「残業代ゼロ」だけが独り歩きしてサラリーマンの恐怖感をあおったのが大きな要因だった。本質的な議論が深まらないまま、今回も同じレベルの議論が繰り返されるとすれば、「柔軟な働き方」は絵に描いたモチに終わる可能性が高い。


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