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2017年5月 8日

中高年の転職増、若年層の減少補う

人手不足を反映、「35歳の壁」崩れ

 転職市場の拡大が続いている。総務省の労働力調査によると、2016年の転職者数は約306万人で、前年より8万人増。09年の320万人以来、リーマン・ショックのあおりで一時は急減したが徐々に回復し、7年ぶりに300万人の大台を回復した。その“主役”となっているのは40~50代の中高年層だ。(報道局)

 近年の特徴は、「転職は35歳まで」という長年の傾向が崩れつつあること。同調査でも年齢別の転職者数をみると、「25~34歳」が77万人、「35~44歳」が60万人と“中心世代”を占めているが、いずれも過去数年から頭打ち状態。これに対して、「45~54歳」は50万人で、しかも毎年ほぼ5万人単位で増えている。

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高齢社員の「生涯現役」セミナーは花盛り

 それより上の層でも増加傾向がみられ、「55~64歳」は43万人、「65歳以上」も16万人で、毎年1~2万人増えており、中心世代とは対照的な動きをみせている。大企業の大多数は今も60歳定年制を維持し、雇用義務のある65歳までは契約、嘱託などの身分で再雇用している所が多いが、定年を機に転職に踏み切る高齢社員も増えていることがうかがわれる。

 これには人材を求める企業側の事情も反映している。従来の転職市場は終身雇用制を反映して、35歳程度までの転職が圧倒的に多く、それより上の年代になると業務内容が高度化し、給与水準も急上昇することから、転職は困難というのが一般的な傾向だった。しかし、人手不足の長期化が変化をもたらした。

 人材紹介会社などの話によると、大量の人手を必要としてきた飲食・サービス業界を中心に省力化、IT化の波が急速に広がり、ソフトエンジニアなど専門職の需要が一段と高まっている。ITに精通していれば、高齢者でも採用する企業が増えているという。

 また、新規事業の拡大に伴って異業種からの人材が必要になるケース、海外事業の展開で人事マネジメントの専門家が必要になるケースなど、自社の人材では賄いきれない即戦力への需要が高まっているのも特徴の一つだ。

高まる企業の「即戦力」需要

 人材紹介のインテリジェンスが毎月発表している転職求人倍率(企業の求人数を転職希望者数で割った数値)は、14年以降は常に2倍を超えており、今年3月は2.59倍。求人数は28カ月連続で増えている。業種別では「IT・通信」の6.42倍、「サービス」の3.01倍、「メディカル」の2.78倍などが高倍率だ。

 16年下半期の実績でも、転職成功者の平均年齢は32.5歳だが、35歳以上が過去最高の30.2%を占め、過去10年間で3.4歳上昇した。同社は特に、40歳以上の転職者の増加傾向に注目し、「豊富なキャリアや汎用的なビジネススキルを持つミドル層を即戦力として採用したいという企業の機運が、一層高まっていることが大きな要因」と分析している。

 ただ、多くの企業が年功序列と終身雇用を前提にした昇進・賃金構造を根強く抱えていることも事実で、それが退職金や厚生年金などに影響を及ぼすことから、日本の転職市場が欧米に比べて規模が小さく、能力評価などの点で透明性を欠くという“硬直性”が長年の課題となっていた。

 政府は、「解雇無効時の金銭解決の制度化」や「確定拠出型年金の持ち運び可能制度」など、転職しやすい市場環境の整備に努めているが、既存制度とぶつかり合う場面も多く、導入に四苦八苦しているのが実情だ。
 

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