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2017年10月 2日

◆経済トピックス◆ 総選挙、消費増税分を教育費に“流用”

財政再建ますます困難に

 消費税をめぐる情勢がまたおかしくなってきた。10日に公示される総選挙の争点の一つになりそうだが、問題は増税分の使い道。2012年の「3党合意」から大きく逸脱しそうな形勢だ。「凍結」や「増税廃止」を掲げる政党もありそうだ。消費税はどこまで政争の具にされるのか。(報道局)

 現在の消費増税問題は、旧民主党政権時の2012年、民主(現民進)、自民、公明の3党が消費税率を5%→8%→10%と段階的に引き上げることで合意した3党合意にさかのぼる。「社会保障と税の一体改革」を掲げ、毎年増える社会保障費の財源確保と財政健全化の両立を目指したもので、3党は確認書まで交わした。消費税を「政争の具」にせず、次世代に負担を先送りしないとの理念も込められていた。

 ところが、政権に復帰した自公の安倍政権は14年4月に税率を予定通り8%に上げたものの、同年11月に翌15年10月に予定していた10%への引き上げを「景気弾力条項」を盾に先送りし、16年6月には「新しい判断」で19年10月に再び先送りした。

 さらに、安倍首相は今回、10%への引き上げ時期は変更しないとする一方で、増税分の約5兆円について、当初予定していた「国の借金返済に4兆円、年金・医療などの社会保障に1兆円」から、借金返済の部分を見直して「4兆円の中から1兆円分を教育無償化などの子育て支援に使う」という構想を打ち出した。

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消費税がまたまた政争の具に

 子育て支援は、幼児教育・保育の無償化、大学生に対する給付型奨学金の拡大などを掲げているが、それらに必要な財源は約7000億円とされ、高校などの教育を無償化すれば、さらに財源が膨らむ。このメドが立っていなかったことから、消費増税分を“流用”することで選挙公約の目玉にしたものだ。

 しかし、こうした使途変更により、政府予算のうち、国債発行の歳入と国債利払いの歳出を除いたプライマリーバランス(基礎的財政収支)を20年度に黒字化するという政府の計画は達成が一段と厳しくなり、財政健全化の道はますます遠のくことになる。仮に使途変更せず、増税分を3党合意の内容通りに実施しても、黒字達成には8~10兆円の収支改善が必要と試算されていたから、今回、使途変更を表明した政党の「人気取り公約」と批判される理由は十分にある。

骨抜きされ続ける「3党合意」

 今回の総選挙は、安倍政権の党利党略がことのほか目立った「大義なき解散」を発端に、希望の党による民進党議員の“選抜合流”などのハプニングも起きて、にわかに政界再編だけがクローズアップされてしまい、賛否が分かれる消費増税問題は陰に隠れてしまいがちだ。教育の無償化それ自体は重要な政策であり、何らかの形で公約に掲げる価値はありそうだが、3党合意を壊して消費増税分を“流用”することが妥当かどうか、大いに疑問と言わなければならない。

 どの政党が政権を取っても、国と地方の借金残高である1100兆円(17年度末)という巨額債務は残り続ける。GDP(国内総生産)の2倍超という先進国で最悪の赤字財政を立て直すには、消費増税と並んで高齢者の医療費負担増や年金支給開始年齢の引き上げなどの歳出カットといった“耳障りな”公約を掲げる政党があってもいいはずだが、今のところ見られない。「消費税を政争の具にしない」と大見えを切った3党合意の骨抜きだけが着実に進んでいる。 (本間俊典=経済ジャーナリスト)
 

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