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2017年12月25日

山口育子COML理事長に聞く(下)

審議会委員の養成講座も開設

―― 昨年からは東京で、市民養成講座を発展・進化させた「医療関係会議の一般委員養成講座」も始めました。その狙いや内容は?

sc171225_001.jpg山口 市民養成講座を「基礎コース」、委員養成講座を「アドバンスコース」と位置付け、基礎コース終了者の中から、さらに意欲のある人向けに設けた講座です。昨年度は試験的に「倫理審査委員」の養成を目的に、東大や慶応大の倫理審査委員会を傍聴してもらうなどして感触を確かめ、今年から本格的に始めました。

 講座は全7回で、医療関係の審議会を傍聴して報告してもらう、ディベート講師を招いての審議訓練、医師らを交えた模擬検討会といった“実践講座”です。7~10月、12~18年3月の2クール実施しましたが、受講16人中6人が合格しています。講座は大学教授ら専門家のご協力も得て、できるだけ「本番」と同じ環境で行います。すでに数人が、実際に倫理審査委員として委員会に参画しています。

―― かなり高度なレベルですね。

山口 私は政府、自治体、大学病院などの各種審議会、倫理審査会などの委員を多数お引き受けしていますが、そこで感じてきたことは、医療関係の会議では仮に患者・市民代表が参画する機会があったとしても、医療機関や行政関係者などに比べると、専門性の点や持っている情報量などで大きなハンディがあり、なかなか対等な議論ができないという現実でした。

 しかし、医療政策や医療現場の方針がそうした場で決まるとなれば、やはり「専門家にお任せ」というわけにはいきません。患者・市民の立場を代弁できる、冷静で成熟した人材が必要になります。こうした人材を育成・登録しておき、政府や自治体の審議会、医療機関の倫理審査委員会などの要請に応じて委員を派遣する「委員養成・バンク化構想」を打ち出したところです。

―― 患者・市民が参画する機会は、今後、増えていくのですね。

山口 すでに、がん対策基本法などで患者の参画を義務化しています。最近では、この6月に医療法施行規則が改正され、高度医療を行う特定機能病院の承認要件として、病院内部に「監査委員会」を設置して、委員の半数以上は「病院と利害関係のない者」から選び、その中に「医療を受ける者」が加わりました。特定機能病院は全国に85カ所ほどありますから、患者・市民の参画機会がぐんと増えることになったわけです。この流れは、今後も止まることはないでしょう。

ネット情報のジレンマ

―― コムルが市民の人材育成にそこまでこだわる背景には何があるのですか。

山口 「お任せ医療から協働医療へ」など、医療現場に大きな変化が訪れているからです。日本は長年にわたって、医療政策から個々の患者の治療方針まで、医療従事者や行政によって全て決められてきた、と言っても過言ではありません。しかし、医療が著しく高度化、専門化した結果、医療の「不確実性」が高まり、高額医療の増加などで国民皆保険制度の土台が揺らぎ始めるなど、「お任せ医療」は機能不全に陥りつつあります。

 しかし、患者・市民がこうした現実をどこまできちんと認識しているかとなると、疑問ですね。近年はインターネットが普及して、患者・市民にとって情報入手は容易になりました。しかし、その情報が本当に正しいのか、現実的なのかといった“医療リテラシー”は高いとは言えず、私たちの活動のジレンマにもなっています。

―― 「賢い患者」になるのは結構むずかしい?

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医師と患者の「協働」を目指す=模擬患者活動

山口 確かに、簡単だとは言えないかもしれません。しかし、1人1人が「いのちの主人公」「からだの責任者」という自覚を持つようになれば、自分の受けたい医療をどう考えるか、医療側はどう考えているかといった冷静な意識が自然と身に付き、医師たちとのコミュニケーションもうまく取れる「協働治療」は可能になると思います。

 超高齢社会に突入した日本は、今後、急性期医療以上に慢性期医療や介護が大きな課題になります。それだけ、患者・市民自身が「自分はどうしたいのか」と主体的に考え、判断する機会が増えるでしょう。必然的に、医療が個人的問題から社会的問題に変化して、医療現場の変革につながるはずです。コムルの活動もそれを目指しています。 (おわり)


山口 育子氏(やまぐち・いくこ)
1965年、大阪市生まれ。91年、自らの患者体験を通じてCOML(コムル)創始者の辻本好子氏(2011年死去)と出会い、92年2月からCOMLスタッフとして相談、編集、渉外などを担当。02年4月、法人化した「NPO法人ささえあい医療人権センターCOML」専務理事兼事務局長。11年8月、辻本氏の後継者として理事長に就任。厚労省社会保障審議会医療部会など、多数の審議会委員を務める。HPはhttp://www.coml.gr.jp/

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