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2018年1月15日

一段と進む“国民皆就労”でも

今年の雇用、さらにタイトに

 企業の人手不足が長引き、雇用のひっ迫感は強まる一方だ。昨年はほぼ一貫してタイトな状況が続いたが、今年もこの流れに大きな変化はなく、“国民皆就労”が一段と高まることが予想される。(報道局)

 人口減少に伴い生産年齢人口(15~64歳)は減っているが、労働力人口(就労者と完全失業者を合わせた数)は横ばいを維持している。総務省の労働力調査によると、2016年の年間就労者人口は6440万人で4年連続の増加、失業者は208万人で7年連続の減少だった。17年11月時点の就労者数は6552万人で、完全失業者は178万人だったから、今月末にも発表される17年の年間統計では就労者増と失業者減がさらに進み、就労者数が過去最高を記録した1997年の6557万人に迫るのは確実だ。

 人口減下での労働力の増加は、女性と高齢者の就労が増えていることが最大要因。女性の場合、育児休業制度の充実や保育所の整備などで、出産・育児のために休職する人が減ったことなどから、30~40代に労働力率が下がる「M字カーブ」の窪みが以前に比べて浅くなった。高齢者の場合は、60~65歳で定年を迎えた人が退職後も働き続けるケースが一般的で、人口が突出して多い団塊の世代の多くがまだ就労している点が特徴だ。

 政府や民間シンクタンクによると、今年も人手不足が緩和される材料は乏しく、就業者増と失業者減の流れは変わらない、というのが大方の見方だ。

 その理由として挙げられるのが、今年は平昌五輪・パラリンピック(2月)、サッカーのロシアW杯(6月)などが相次ぎ、テレビの買い替えや旅行需要が高まるためだ。また、19年は日本でラグビーW杯が開かれ、20年には東京五輪・パラリンピックが開かれる。特に、東京五輪は内外の消費を刺激するだけにとどまらず、競技関連施設、ホテル、道路などの大規模なインフラ整備を伴うことから、建設やサービスなどの業界にとっては人手が幾らあっても足りない状態になりそうだ。

 加えて、介護が必要な高齢者の増加に対応する関連施設の整備も進み、介護職員が絶対的に足りないことも、就労を押し上げる一因となっている。厚生労働省によると、介護職員は13年時点で約171万人が就労しているが、全団塊の世代が75歳以上になる25年には約253万人が必要になると推計。しかし、供給予定数は約215万人で、40万人近く不足する見通しだ。このギャップを埋めるために、今年も介護職員の大幅増が予想される。

 景気回復の流れは今年も続くと見込まれる。就労者がさらに増えて失業者が減るため、完全失業率は昨年の2%台後半からさらに低下し、今年は2%台前半まで進む可能性もある。

雇用は「量」から「質」の時代に

 しかし、幾ら女性や高齢者を掘り起こしても、人口減少と高齢化がさらに進む以上、いずれ就労者の絶対数も減少に転じることは間違いなく、多くのシンクタンクが「20~25年が就労者数のピーク」と予想している。企業などは今後、雇用の「量」だけでなく、雇用の「質」を高める必要に迫られることになる。

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スーパーでも省力化が進む

 短期的には、生産性を上げるために従業員の賃金を上げ、非正規と正規の格差を縮小し、多様な従業員の就労環境を整備することで、人手不足下でも収益力を高める機会を増やす。また、AI(人工知能)を導入して省力化を図ることも必要になるであろう。安倍晋三首相は経団連などの経済団体に対して、今年の春闘で「3%賃上げ」を要請し、賃金面の政策支援を強めている。

 中長期的には、「社内失業」と呼ばれる余剰人員を抱えた企業から、成長力のある企業に人員がスムーズに移れる転職制度の充実のほか、高度技能を持つ外国人労働者の就労制限の緩和など、大規模な政策転換が必須だが、「終身雇用」で形成された制度や文化、治安なども含めた外国人の受け入れへの疑問など、大きな壁が立ちはだかっており、実現の見通しは不透明だ。
 

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