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2019年6月24日

◆経済トピックス◆独り歩きした平均値の功罪

「2000万円不足」問題

 「老後資金は2000万円不足する」という金融庁の報告書は、思わぬ政治問題に発展した。なぜ、それほどまで問題になるのか。参院選を間近に控えた国会の攻防を見るにつけ、問題の本質から議論がどんどん離れていく不毛ぶりが目立つ一方、「将来不安」の実態を国民に突きつけるという効果もあった。

 金融庁が出した「高齢社会における資産形成・管理」を読んでも、平均的サラリーマンには特に違和感はないはずだ。無職の高齢世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の公的年金と生活費のギャップを毎月約5万円と計算、これが20年続いた場合は約1300万円、30年では約2000万円が不足し、穴埋めに金融資産の取り崩しが必要になるというもの。資産の中心は、サラリーマンが受け取る退職金になる。この計算のどこがおかしいのか。

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「老後格差」が鮮明に

 報告書にミスがあるとすれば、全世帯の平均値を出してしまい、その数字が独り歩きしてしまった点であろう。少なくとも、組織を定年退職してしっかり退職金をもらう層にとっては、当たり前の分析だ。しかし、自営業などで国民年金しか加入していない層や、安給料で貯蓄する余裕のない非正規労働者らにとっては、老後の2000万円は絶望的な数字になる。こうした、ただでさえ将来不安の大きい層に配慮せず、不安を増幅させた点は間違いない。

 厚生労働省によると、昨年4月時点の生活保護世帯は約164万世帯で、そのうち65歳以上の高齢世帯が88万世帯と半数を超えている。それ以外の保護世帯は減少しているのに、高齢世帯だけは増える一方だ。生活保護とまではいかないまでも、総務省の家計調査によると、高齢世帯で貯金が2000万円以上ある家庭は約4割の一方で、500万円未満の家庭も約2割ある。バブル崩壊以後の長期不況の間に収入・資産格差が拡大し、それが高齢世帯の格差という結果にすでに表れているのだ。

 しかし、2000万円の計算の根拠は...

(本間俊典=経済ジャーナリスト)

 

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