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2019年8月14日

(寄稿)関西外国語大学外国語学部教授 小嶌典明さん

労働力調査を読み解く――イメージとは異なる実像(2)

2 非正社員――若年男性をイメージすると、政策を誤る

sc190812_5.jpg 非正社員がまた増えた。かつて、このように労働力調査(基本集計)の月次の集計結果を伝える、月末の定例閣議が開催される火曜日または金曜日の夕刊の紙面には、決まって若年男性が非正社員の「代表」として、写真入りで登場した。現在も、そのイメージはそれほど変わっていない。このことが、非正社員の正社員化を追求する政府の政策にも直結している。

 しかし、でみたように、非正社員の主役は女性であり、男性ではない。また、非正社員が増加したとはいっても、その多くは、60歳以上の高齢層によって占められている。確かに、男性についても、非正社員は、この15年間(2003~18年)に226万人増えている。だが、男性の場合、60歳以上の高齢層が占める割合は、その4分の3を超える(172万人、76.1%)表5

 以前は男性非正社員の就労形態のトップに付けていたアルバイトも、最近では僅差とはいえ、契約社員・嘱託にトップの座を譲っている。在学中の者が多い若年層(15~24歳)は、アルバイトに精を出し[注4]、高齢層は、契約社員や嘱託として働く。高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)の改正による、継続雇用制度の導入を柱とする高年齢者雇用確保措置の義務化(2006年4月)以降、そうした傾向もすっかり定着した表6

 卒業を契機にアルバイトに就く者は減り、定年をきっかけとして契約社員や嘱託として勤務する者は一挙に増える。それがどのように減り、増えていくかも、5年後、10年後、そして15年後の足跡をたどることによってわかる表6
 他方、女性の場合には、30代前半以降60代半ばに至るまで、パートをはじめとする非正社員が年齢を重ねるごとに増え続けるか、少なくともその人数が大きく減らない点に、顕著な特徴がある。このこともまた、年齢階級別に、5年後、10年後、15年後の足跡をたどることによって明らかになる表7

 このようにして、女性の場合、非正社員が一貫して増加を続けるなかで、雇用者も増加をみた[注5]。それがこの15年間でみると、正社員の増加を伴うものであった(なお、過去5年間では、男性の正社員も増えている)ことも、併せて付記しておきたい表8

 学生アルバイトや定年後の嘱託・契約社員は、正社員化の対象とは考えにくい。非正社員の中心に位置する主婦パート[注6]についても、同じことがいえよう。こうした多数派の非正社員の存在を無視し、若年男性の非正社員(学生アルバイトを除く)をイメージして、その正社員化や同一労働同一賃金の実現を目指しても、おそらくは失敗に終わる。

 イメージではなく、エビデンスに基づいて政策を立案する。そうした地に足のついた堅実な姿勢が、今、政府には求められている。

 

注4 労働力調査(基本集計、2018年平均)によると、男性の若年層(15~24歳)の場合、284万人の就業者のうち、86万人(30.3%)が「通学・家事などのかたわらに仕事」と回答し、その大半を「通学のかたわらに仕事」(83万人、29.2%)が占める。なお、対象を20~24歳の男性に絞ると、230万人の就業者のうち、「通学・家事などのかたわらに仕事」と回答した者は56万人(24.3%)、そのうち「通学のかたわらに仕事」と答えた者は53万人(23.0%)であった。
注5 女性の場合、家族従業者
就業者には含まれるが、無給)が2003年の237万人から18年の120万人へと、117万人も減少したことが、一方では注目される。その結果、就業者に占める家族従業者の割合は4.1%にまで低下した。1953年には、その割合が55.7%もあったことを思えば、隔世の感がある。筆者も、かつて、こうした家族従業者の減少と臨時雇用者の増加の関係について論じたことがある(拙著『労働法の「常識」は現場の「非常識」――程良い規制を求めて』(中央経済社、2014年)70~74頁を参照)が、規模という点からいっても、家族従業者の減少(117万人減、自営業主の減少と合わせると124万人減)だけで非正社員の増加(390万人増)を説明することはできない。このことは、男性の場合における自営業主の減少(94万人減、家族従業者の減少と合わせると120万人減)と非正社員の増加(226万人増)の関係についてもいえる。
注6 ちなみに、労働力調査(基本集計、2018年平均)によると、女性パート914万人のうち、「世帯主の配偶者」と答えた者は、649万人(71.0%)いた。


(つづく)

 

小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。関西外国語大学外国語学部教授。大阪大学名誉教授。同博士(法学)。労働法専攻。規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事するかたわら、国立大学の法人化(2004年)の前後を通じて、人事労務の現場で実務に携わる。主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)、『メモワール労働者派遣法――歴史を知れば、今がわかる』(アドバンスニュース出版)のほか、2019年に出版された最新作に『現場からみた労働法――働き方改革をどう考えるか』(ジアース教育新社)がある。
 

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