スペシャルコンテンツ記事一覧へ

2019年12月18日

(寄稿)関西外国語大学外国語学部教授 小嶌典明さん

毎勤統計を読み解く――つくられたイメージ(2)

2 変化に乏しい一般労働者、大きく変わったパートタイム労働者

iskojima.jpg 毎勤統計は、でみたように、「常用労働者」(①期間を定めずに雇われている者、または②1か月以上の期間を定めて雇われている者、のいずれかに該当する者)をその調査対象としている。さらに、毎勤統計では、この「常用労働者」を「一般労働者」と「パートタイム労働者」に分けて、統計がとられている。

 ここにいう「パートタイム労働者」とは、常用労働者のうち、
(1)1日の所定労働時間が一般の労働者より短い者
(2)1日の所定労働時間が一般の労働者と同じで1週の所定労働日数が一般の労働者よりも少ない者
のいずれかに該当する者をいう。

 その定義は、パートタイム労働法2条に定める「短時間労働者」の定義(注1)に近い。

 そして、「一般労働者」とは、「常用労働者」のうち、このような「パートタイム労働者」以外の者をいう。

 表2によると、この20年間に労働時間は着実に減少。2018年度には、ついに常用労働者1人当たりの年間総実労働時間が、1700時間をわずかにせよ下回る(1696.8時間)ものとなった。月間出勤日数がこの間2日近く減少したことが、その背景にはある(1998年度を100.0とした場合の2018年度の比率は、労働時間(91.1)、出勤日数(91.5)ともに、ほぼ同水準にある)。

 しかし、表3にみるように、一般労働者に対象を限ると、労働時間も出勤日数もあまり変わっていない。1人当たりの年間総実労働時間は、この20年間で6時間減少したにすぎず、相変わらず2000時間の大台(2018年度は2004.0時間)をキープしている。月間出勤日数にしても、この間の減少日数は、わずか0.6日(18年度は20.0日)にとどまっている。

 このような一般労働者の動きとは対照的に、表4にみるように、パートタイム労働者1人当たりの年間総実労働時間は、過去20年間に127.2時間も減少。今や1020時間を下回る(2018年度は1018.8時間)ものとなっている。月間出勤日数も、この間に2日以上減少し、15日を割る(18年度は14.7日)に至っている。

 さらに、この20年間に、一般労働者の数はほとんど変化をみなかった(2018年度は24万2千人減の3447万4千人)のに対して、パートタイム労働者の数は倍増(18年度は842万2千人増の1557万8千人)。その結果、パートタイム労働者の動向が、常用労働者全体の変化を実質的に左右することとなった。

 他方、常用労働者全体でみると、表2にあるように、1月当たりの現金給与総額は、この20年間に――労働時間の減少を上回る勢いで――1割以上も減少している。1時間当たりの給与額も、ようやく底を打ったとはいえ、今日なお20年前の水準を回復するには至っていない。

 こう書くと、労働者の賃金が全体として下がっているようにみえるが、表3表4を一瞥してもわかるように、実は一般労働者、パートタイム労働者ともに、1時間当たりの給与額をとっても、1月当たりの現金給与総額をとっても、その額は減っていない。

 なるほど、賃金が増えたといっても、表3にみるように、一般労働者の場合、この20年間の増加率は、1月当たりの現金給与総額が1.3%(2018年度は42万3355円)、1時間当たりの給与額も1.8%(18年度は2535.1円)と、文字どおりの微増にとどまっている。

 これに対して、表4にみるように、パートタイム労働者の場合には、この間の増加率が、1月当たりの現金給与総額で6.0%(2018年度は9万9813円)、1時間当たりの給与額では19.3%(18年度は1175.7円)と、一般労働者の増加率を大幅に上回るものとなった。

 ただ、このように、パートタイム労働者の場合、1月当たりの現金給与総額は依然として10万円を下回っており、この20年間における労働者の増加がもっぱらこのようなパートタイム労働者の増加(その規模は800万人を優に超える)によるものであったため、常用労働者全体としては、1月当たりの現金給与総額が1割以上の減少をみる結果となった。そこには、こんなカラクリがあったのである。

 だとすると、でみたマスコミのように、常用労働者全体の数値をもとに、1月当たりの現金給与総額が増えた、減ったと報道すること自体に意味はないともいえる。そうした報道が伝えるのは、つくられたイメージでしかないからである。

 

注1 パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)2条は、次のように規定している(2020年4月1日に施行されるパート・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)2条1項に同じ。なお、この新法については、拙稿「パート・有期雇用労働法とその問題点」関西外国語大学研究論集109号(2019年3月)85頁以下を参照)。

(定義)
第2条 この法律において「短時間労働者」とは、1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者(略)の1週間の所定労働時間に比し短い労働者をいう。

(つづく)

 

小嶌典明氏(こじま・のりあき)1952年大阪市生まれ。関西外国語大学外国語学部教授。大阪大学名誉教授。同博士(法学)。労働法専攻。規制改革委員会の参与等として雇用・労働法制の改革に従事するかたわら、国立大学の法人化(2004年)の前後を通じて、人事労務の現場で実務に携わる。主な著作に『職場の法律は小説より奇なり』(講談社)、『メモワール労働者派遣法――歴史を知れば、今がわかる』(アドバンスニュース出版)のほか、2019年に出版された最新作に『現場からみた労働法――働き方改革をどう考えるか』(ジアース教育新社)がある。

PAGETOP