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2024年2月19日

◆経済トピックス◆主要因は労働生産性の格差

日独の「半世紀ぶり」GDP逆転

 日本の2023年GDP(国内総生産)が56年ぶりにドイツを下回り、世界3位から4位に"転落"した。資本主義国の中では長年、米国に次ぐ2位の地位を維持してきたものの、2010年に中国に抜かれて3位に。今回はそれに次ぐ"転落"だが、単なる順位争いにこだわるより、生産性という本質的な課題を見据える必要がある。(本間俊典=経済ジャーナリスト)

sc240219_2.png 内閣府の発表(速報値)によると、23年の場合、日本の名目GDPは591兆4820億円(前年比5.7%増)の高い伸びとなった。しかし、国際比較に使うドルの実勢レート換算では、日本の4兆2106億ドルに対してドイツは4兆4561億ドルに。23年の為替レートは平均141円で、前年の132円から7%近い円安になった。

 一方、ドイツは日本以上の物価高で名目成長率が6.3%に伸びた。このため、物価上昇を差し引いた実質GDPの伸びは日本の1.9%増に対してドイツは0.1%減となっている。「今回の日独逆転の最大要因は円安」とする見方も少なくない。

 また、ニッセイ基礎研の試算では、購買力平価(各国の物価水準の違いを除いた購買力比較レート)によるGDP比較では、日本の6.5兆ドルに対してドイツは5.5兆ドル。両国の差は縮小しているものの、ドイツはまだ日本を抜いてはいない。その意味では、日本国民の方がドイツ国民より「豊かな生活」をしており、テレビなどのインタビューで「日本を抜いたと言われても、実感がない」とドイツの人々が答えているのも当然だ。では、日本にとって、今回の"転落"の真の問題は何か。それは「生産性の長期低落」に行き着く。

 内閣府の22年データによると、1人あたりの名目GDPはドイツの4万8718ドルに対して、日本は3万4064ドルでドイツの7割程度。先進国で構成するOECD(経済協力開発機構)加盟38カ国の中の順位も、ドイツの16位に対して日本は21位だ。しかも、2000年代に入ってドイツがこの順位を"死守"しているのに比べ、日本は10年前の10位からジリジリ下げる長期低落傾向をたどっている。

sc240219.png 日本生産性本部による労働生産性の国際比較を見ると、時間あたり生産性(就業1時間あたりの付加価値)は22年でドイツの87.2ドル(OECD11位)に対して、日本は52.3ドル(同30位)。1人あたり生産性(就業者1人の付加価値)もドイツの12万5163ドル(同15位)に対して日本は8万5329ドル(同31位)だ。ドイツの人口は日本の7割程度だが、1人あたりでこれだけ差があれば、生産性の総体でもあるGDPも逆転されるのは必至。23年は円安によってその時期が早まったに過ぎない=表

 生産性の両指標とも日本はドイツの7割弱程度で、名目GDPの規模とほぼ一致する。しかも、ドイツがジリジリと順位を下げながらも、下げ方は緩やかなのに比べ、日本はコロナ禍直前からの下落が顕著だ。いずれも購買力平価での比較であることから、実勢レートでの比較よりは緩やかと推測できるものの、ここまで生産性格差が鮮明になると、事態はやはり深刻だ。

 なぜ、こうなったか。さまざまな分析が出ているが、ドイツが1990年の東西統一後、EU(欧州連合)の統一通貨ユーロの導入を契機に輸出面で有利になり、21世紀に入るとEU域内を席巻する勢いとなった。これに対して、日本はバブル崩壊後のデフレ経済が30年の長期に及び、世界の流れと逆行する体制が続いたため、気が付けば"周回遅れ"の走者になっていた。

 1990年代以降、日本の労働生産性はじわじわ下降曲線をたどり、他の先進国、中進国に次々と追い抜かれた。データ上ははっきりしており、経済学者らの警告もたびたび出ていたが、物価も賃金も上がらない内向けの"ゆでガエル"状態に甘んじてきた政策上のツケが、今回の数字となって表れたと言える。

学ぶべき内容多いドイツの進路

 日本とドイツは地理的には離れており、周囲を取り巻く政治経済の状況も異なるが、西側民主主義国の一員であること、米英のような金融立国ではなくモノづくりを中心に据えていること、勤勉な国民性など、日本との共通点も多く、生産性の向上にどのように取り組んでいるか見習うべき点は多々ある。その意味で、日本が4位に"転落"したことは、日本経済にとって良いショック療法になり得る。

 例えば、ドイツは職業訓練制度で名高い「デュアルシステム」によって、高度技術者の底上げを図っているのに対して、「日本版デュアルシステム」はそもそも導入時期が遅いうえ、まだモデル段階にとどまっていて十分な成果は出ていない。ドイツが「マイスター」制度によって技術力を客観評価しているのに対して、...


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