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2021年2月22日

企業主導のキャリア形成は是か非か JILPTの労政フォーラムで議論

 労働政策研究・研修機構(JILPT)の労働政策フォーラム「これからの能力開発・キャリア形成を考える」が19日と22日、オンライン形式で開かれ、人手不足と技術革新に日本企業はどう対応すべきか議論した。

 議論に先立ち、19日に同機構の藤本真主任研究員が「日本の職業能力開発」と題して課題提起し、同機構の荒川創太主任調査員補佐が昨年実施したアンケート調査結果を報告。OECD(経済協力開発機構)のマーク・キース・雇用労働社会局スキル・就業能力課長が「成人学習機会の創出」と題して特別報告した。事例報告としてキヤノン人事本部の小笹剛、コマツCTO室の高野史好、鹿島建設人事部の北野正一郎の3氏が、各社の取り組みを披露した。

 藤本氏は、日本ではこれまで企業主導の能力開発がメーンで、公的な支援体制が弱いこともあって、労働者個人による自己啓発などの能力開発の機会が少なかった点を指摘。現代ではこの方式が生産性向上に寄与せず、労働者間の格差拡大を招く要因となっていることを示唆した。キース氏も、日本では公的機関による教育への参加率は加盟国中最低であり、AI(人工知能)などに業務が代替される懸念の高い非正規・中高年労働者を中心に支援体制を強化する必要があることを指摘した。

 事例報告で小笹氏は、キヤノンでは階層別研修やビジネススキルの向上に向けて「社内講師」の養成に努めており、現在は8割ほどが"内製化"されていると報告。高野氏は地元の石川県、早稲田大学との産官学連携によるIoT・AI人材の育成活動を通じて、地域経済の生産性向上を図っている現状を解説した。北野氏は同社が昨年、「中長期キャリア目標登録制度」を導入した経緯などを説明した。

 22日のパネルディスカッションでは、イノベーションへの対応、コロナ下での職場コミュニケーション、キャリア形成における会社と個人レベルの取り組み、地域や業界との関係などについて議論。「会社側で研修プログラムを用意しても、受け身の社員が出て来がち」(小笹氏)、「研修ニーズはあるが、具体的に自分は何ができるのかといったマッチングが大変」(高野氏)、「もう終身雇用が全てではなく、社員も能動的なキャリア形成に取り組む必要がある」(北野氏)など、課題も多いことが浮かび上がった。また、3社とも大企業ならではの先進的な「企業主導」ぶりが目立ち、個々の社員の自律的なキャリア形成という観点からの意見は少なかった。


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