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2017年4月11日

【書評&時事コラム】『子育て支援と経済成長』

公的な育児支援は経済成長に寄与する

c170411.jpg著者・柴田 悠
朝日新書、定価760円+税

 

 急速な少子高齢社会の進展によって、日本の財政に赤信号が灯り、その“主犯格”扱いされているのが社会保障だ。とりわけ、団塊の世代が75歳の後期高齢者入りする2025年ごろには、医療費や介護費が巨額に膨らみ、どうやってそれを抑えるかが最大の課題。子育て支援は必要だが、とてもそこまでは十分な手が回らない。今の日本の空気は、概ねそんなところであろう。その結果、希望する保育園に入れない待機児童問題などは、いつまで経っても解消しない。

 しかし、社会保障は本当に国家の「お荷物」だろうか。この素朴な疑問に基づき、著者はOECD(経済協力開発機構)の統計データなどの綿密な分析を重ねた結果、社会保障の一部である子育て支援は経済成長を引き上げ、国家財政の改善に導く可能性を見出した。

 例えば、公共事業に予算を投入した時にGDPが増える経済効果が1.1倍なのに対して、保育などの子育て支援に投入すれば、経済効果は2.3倍になる。それだけでなく、子育て支援は労働生産性を上げる、子供の貧困や自殺を減らす、財政の改善につながる――などの効果も見込めるという。

 なぜそうなるかは、本書を手に取ってもらうのが一番だが、常識で考えても、子育てに財政投入して親の負担を減らし、十分な教育を受けた子供が社会人になれば、質の高い労働力としてGDP増加に貢献するうえ、納税額は増え、公的な貧困対策費は減少する。ただ、それには長い年月が必要になるため、要は政府が「この国の形」をどう描くかという長期ビジョンに掛かっている。冷静な分析に基づいた問題提起だ。 (俊)

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