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2018年1月 2日

【書評&時事コラム】『労基署は見ている。』

労基署のことがわかる本

c180102.jpg著者・原 論
日経プレミアシリーズ、定価850円+税

 

 過労死問題、電通社員自殺事件などで一躍脚光を浴びている労働基準監督署(労基署)。警察などの捜査当局と並び、捜査権などの強い権限を持っているにもかかわらず、これまでほとんど社会的に注目されることはなかった。それがにわかに注目を集めることになったのは、「働き方改革」の一環として過重労働などのブラック企業を摘発する専門機関としての役割が評価されているためだ。

 しかし、労基署が具体的にどんな仕事をしているのか、外部からはうかがい知れない部分が多い。本書は、労基署OBが語った貴重な証言であり、労基署の「臨検監督」などの捜査がどのように進められるのか、具体的な事例を通じて詳細に解説している。同時に、役所内部の人間関係や能力の有無によって、捜査の流れが変わることがあることも暴露している。

 ただ、監督官の数は4000人弱に過ぎず、28万人以上いる警察官などに比べると、圧倒的に少ない。このため、ブラック企業の摘発も“一罰百戒”的な意味合いが強く、全国すべてのブラック企業に目を光らせるのは無理だ。そこに著者のジレンマものぞくが、「労働契約は労働者と経営者が主役であり、労基署は第三者」という基本的な立場は今後も変わることはないという。

 労働者の健康と安全を守るのは経営者の基本的責務だが、それを忘れ果てている企業は多い。であれば、労基署が乗り出して注意喚起するしかないが、今後、労基署の対応が厳しさを増すことは間違いない。自信のない経営者にとっては必読書であろう。(俊)

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