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2012年8月13日

ライフネット生命保険の出口治明社長に聞く(下)

人、旅、本から人生、仕事を学ぶ

―― がっちり固まっていた生命保険業界のレガシー・システムに反旗を翻したのはなぜですか。

is120813.jpg出口 広く世界をどう解釈して、どう変革するかという「世界経営計画」のサブシステムとして、生保の変革を志しました。人間は「衣食足りて礼節を知る」といいますが、現代日本の若者層の実態はどうでしょうか。厚生労働省の調査では、20~30代の子育て世代が子育てを終えた世代より貧しいことがわかっています。

 しかも、正社員と非正規社員との格差は開く一方で、非正規で働く世帯は子供も安心して産めない。これが少子化の根本原因です。そんな家庭に毎月1万5000円や2万円もする保険料を払う余裕があるでしょうか。
 私は「子育て世帯の保険料を半分にする」目標を設定して、若い人たちが安心して子供を育てながら働けるシステムを作ろうと思いました。若手ベンチャーの岩瀬大輔氏(現副社長)とそんな議論を交わし、生保のことなど全く知らなかった女性と3人で意気投合し、ネット生保を立ち上げたのです。

2人の良きパートナーに恵まれ

―― レガシー・システムとの軋轢(あつれき)はなかったのですか。

出口 「ネットで生保商品など、売れるはずがない」とさんざん言われました。しかし、なにが顧客のためになるのかという視点は、他ならぬ古巣の日本生命から教えてもらいました。また、どんなビジネスでも異業種からの参入は絶対に必要です。その点、レガシー・システムとは無縁の、良きパートナーに恵まれたのは大きかったですね。

 レガシー・システムとは、言い換えると「1940年体制」なんです。金融業界は戦後も戦時統制システムを引きずってきました。統制したのは旧大蔵省であり、生保も護送船団方式の競争のない状態が長年続いたのです。
 しかし、高度成長期で企業業績が毎年上がり、給料も増えている時代ならそれも有効でしたが、バブル崩壊後の低成長で給料が下がる時代には制度疲労を起こします。そうした時代には、それに合うビジネスモデルが必要なのです。

―― 労働力が正規・非正規に二極化して、日本の企業社会は企業側も働く側も、意識は大きく変わっています。未来の見えない若者層も増えているようです。

出口 私の体験から言えば、人を作るには「人から学ぶ」「旅から学ぶ」「本から学ぶ」の三つがあります。できるだけ幅広い人間関係を築き、他人の考えを聞くことは大切です。世界を旅行して日本とは違う世界のあることを知る、書物を読んで歴史から学ぶこともできます。

 私が60歳を過ぎてからこんな仕事にチャレンジできたのも、そうしたことを学んだからだと思います。挑戦するということは実に楽しいことですし、社内外の挑戦意欲旺盛な若い人たちと話していると、日本の未来は希望にあふれていると確信しています。(大野博司・報道局長)=おわり

 

出口 治朗氏(でぐち・はるあき)1948年、三重県生まれ。72年京都大学を卒業、日本生命に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て主に経営企画を担当、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法改正に携わる。06年退職、「ネットライフ企画」(現ライフネット生命保険)を設立、社長に就任。『生命保険入門 新版』(岩波書店、09年)など著書多数。
 

【ライフネット生命保険】

06年、出口氏とハーバード経営大学院出身の岩瀬大輔氏(現副社長)が「ネットライフ企画」を設立。08年、「ライフネット生命保険」に商号変更、生命保険業免許を取得。
  「かぞくへの保険」「じぶんへの保険」「働く人への保険」の3種類をネット販売し、12年6月末の保有契約件数は13万2551件。開業から4年弱の12年3月15日に東証マザーズ上場。同年3月期の経常収益(売上高)は37億7300万円、従業員87人(12年8月1日現在)。
HPはhttp://www.lifenet-seimei.co.jp/

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