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2011年6月25日

【この一冊】『IFRSに異議あり』

グローバル・スタンダード化するIFRSの問題点を問う

book0625.png『IFRSに異議あり』
 著者・岩井克人、佐藤孝弘
日経プレミアシリーズ、定価850円+税

 

 経理・税務・会計の話は直接の担当者以外には、あまり興味をもたれないものであり、事実、大半の人々にはIFRS(国際財務報告基準)によるグローバルな会計基準の統一は「世界の潮流」であり、日本への強制適用は不可避であると考えられている。これに対して、問題点を理論・実務の両面から指摘しつつ、強制適用に反対するのが本書である。 

 本書は、東京財団の政策研究「会社の本質と資本主義の変質研究」プロジェクトの一環として出版したもので、IFRSの問題が会計の専門家だけの閉じた問題ではなく、国民に開かれた議論へ広がることを期待している。 

 会計基準は一国の経済に多大な影響を及ぼすものであるため、各国は会計基準設定の主導権をめぐって争い、その内容を自国に有利なものにしようとしのぎを削っている。 

 にもかかわらず、日本にはその戦略もなく、「IFRSを無批判、無前提に『高品質』として推進する意見が見受けられるが、IFRSは理論的にも実務的にも欠陥をいくつも抱えているため、『最速で2015年に強制適用を開始する』と言うスケジュールを直ちに白紙に戻すべきだ」というのが著者たちの主張である。 

 かつて、BISによる銀行の自己資本規制が、結果的に日本の銀行の強大化を阻止する役割を担ったように、「グローバル・スタンダード」の裏側には政治的意図が潜んでいるのが常だ。 

 であるとすれば、著者たちの主張を実現化するためには、もっと政治が関与すべきだが、「経済一流、政治は三流」と皮肉られる状況が続いている限り、成算も低いと言わざるを得ない。 (酒)

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