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2011年7月16日

【この1冊】『なぜ日本経済はうまくいかないのか』

「バラマキ政策」が正しい理由とは?

nihimmkeizaiha.jpg『なぜ日本経済はうまくいかないのか』
著者・原田泰
新潮選書、定価1200円+税

 

 著者は内閣府(旧経済企画庁)の官庁エコノミスト出身で、「経済白書」の執筆にも携わったが、役所の限界を早々と悟って民間に移った。その後の縦横無尽な筆力をみると、同じエコノミストでも官と民ではなぜこれほど違うのかと驚かされる。 

 本書は「週刊東洋経済」などに書いてきたコラムをまとめたものだが、改めて読み直すと、著者の基本的立場が「小さな政府」「レッセフェール(自由主義)」にあることが明確にわかる。 

 その象徴が子ども手当、高速道路の無料化、農家への戸別所得補償など、民主党政権誕生の原動力になったものの、その後の運用のまずさなどで、今や見る影もないほど叩かれている「バラマキ政策」についてだ。 

 著者は「経済学的にバラマキ政策は正しい」と主張。なぜかと言うと、どの政策も旧来の政策が巨額予算を使った割に、さっぱり効果を上げなかったから出てきたもの。なぜ効果が上がらなかったかと言えば、監督官庁の許認可を中心とする過剰規制のため、という。 

 「政治家や識者は普通の人々の自発的な力を信じていない」「政府があれこれ指示する政策がうまくいったためしはない」と明快だ。霞が関の中では存在感の薄い「弱小官庁」出身者としての“恨み節”さえ感じられる。 

 その意味で、どの政策も費用対効果を十分検証しないまま、軌道修正せざるを得なくなった現政権の腰砕けは国民の期待を裏切るものであり、東日本大震災の復興対策のもたつきがそれに輪をかけた。ある政策が経済学的には正しくても、政治によってネジ曲げられるのは日常茶飯事。震災復興で“焼け太り”した役所だけが笑いをかみ殺しているのか、と勘繰りたくもなる。 

 マクロ経済に特有の分析がむずかしい部分もあるが、頭の整理には格好の1冊だ。 (のり)

 

 

 

  

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