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2011年10月 1日

【この1冊】『歴史の使い方』

歴史から学ぶノウハウが満載

sakaiya.jpg『歴史の使い方』
著者・堺屋 太一
日経ビジネス人文庫、定価714円+税


 日本はどこへ向かおうとしているのか。デフレ経済に長いこと悩まされ、思い切って政権交代させてみたら、民主党は化けの皮がはがれて短命政権の繰り返し。東日本大震災や原発事故で国民が困り切っていても、政争にだけは精を出す体たらくだ。日本はこれでいいのだろうか、と多くの人が漠然とした先行き不安を感じている。

 本書は、そんな時の頭の整理にうってつけ。2004年に出したハードカバーの文庫化だが、序文で著者は「六年を経ているが、原書を一言一句も訂正しなかった」と豪語している。裏を返せば、この間、多くの変化があったにもかかわらず、歴史に学ぶこと、歴史を使って現実を判定する手法にはいささかの変更もない、と断言しているのである。

 本書では日本史、世界史を知る、楽しむ、練る、企てるなど7章に分け、内外の豊富な史実をからめながら、現代人がそれをどう評価し、どう生かすかを示唆する内容。著者の博識と平易な文章が、読む者を引き込む。

 日本の戦国時代は規制緩和の高度成長期だった。江戸時代の前半は成長期で後半は停滞期にあたり、4度のコンドラチェフの波(60年周期の景気の波)が認められる。石田三成は「偉くない人」が国家プロジェクト(関が原の合戦)に挑むノウハウを持った最大の人物など、独自の見方がおもしろい。

 多くの人が興味を持つ民主党政権が「明治維新政府」なのか、「最後の将軍」なのかについては、「公務員制度の改革がカギ」としているが、それでいけば「最後の将軍」の色合いが濃厚になりそうだが……。

 姉妹篇の『歴史からの発想』(日経ビジネス人文庫)と合わせて通読すると、おもしろさが倍増する。 (のり)

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