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2012年2月11日

【この1冊】『元商社マンが発見した古代の商人たち』

「総合商社」のルーツは古代にあった

c_120211.jpg著者・布施克彦
洋泉社歴史新書、定価820円+税

 

 日本古代史をビジネスの観点、それもモノづくりというより輸出入という観点でみると、こうも様相が違ってくるのかと思わせる書である。それもそのはず。著者は大手商社マンOBで、鉄鋼部門のエキスパート。

 「総合商社」という日本独自の企業体がなぜ生まれたのか。その原点を探ってどんどん過去にさかのぼるうちに、「古代商社」があったのではないかとの仮説を立てるに至った。

 近年、日本、韓国、中国とも古代遺跡の発掘作業が盛んに行われ、思いもかけない出土品などが話題になっている。その中には、時代的にその地で生産したとは考えられないモノも多く、古代3国の間に活発な経済交流があったことを示唆している。

 しかし、だれが作り、だれが運んだのか。弥生時代以降のさまざまな遺跡から出てきたモノ、「魏志倭人伝」「古事記」「日本書紀」などに登場するモノを「点」とすれば、点と点を結ぶ国内外の流通経路があったはずであり、それを専門にする「商社マン」もいたはず。著者の想像力は点と点を結ぶ「線」に向かう。

 ここで登場するのが、海を自由に往来する「海人(海の民)」の頂点に立つ阿曇(安曇)氏と宗像氏という、古代の2大氏族。どちらも福岡県に本拠地を置いた「古代商社」で、阿曇氏は北九州一帯を席巻し、宗像氏は出雲、大和の「東方作戦」に成功。いずれも大和朝廷の中枢ポストに就いた(この観点から著者は邪馬台国=北九州説を採っている)。

 著者は古代の研究史料の山に分け入る一方、九州、対馬、出雲などの史跡や神社に足を運び、仮設が妥当かどうか、商社マンとしての勘を働かせる。記述も学術論文のような難解さはなく、現代ビジネス用語を使って具体的に解説している。これもユニークだ。続編を期待したい。 (のり)

 


 

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