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2013年4月 6日

【この1冊】『評価と贈与の経済学』

ポスト・グローバル社会の「新しい共同体」を巡る対談集

c130406.jpg著者・内田樹、岡田斗司夫
徳間書店、定価952円+税

 

 「凱風館」という私学塾を主宰しているフランス現代思想の専門家である内田氏と、社員が給料を払うユニークな会社「FREEex」の代表者である社会評論家の岡田氏が、自らの体験に基づき、「新しい共同体」を巡って話し合う対談集である。タイトルから受ける堅苦しさと異なり、現在と未来の社会を巡って、ユニークな見方が随所に散りばめられており、読者を飽きさせない。

 ただし、「贈与」と「評価」という「新しい共同体」の統合原理が十全に機能するかどうかについては、必ずしも説得的ではない。かつて、「交換」を基軸にした市場原理から逃れて「新しい共同体」を樹立しようした様々な「コミューン運動」が現れたが,ことごとく失敗した。

 その根本的理由は、共同体の内部をいくら新しい原理で統御しても、完全に自給自足的な「閉じられた共同体」にしない限り外部との関係が残り、しょせんは「交換」を基軸とした市場原理に従うしかないため、共同体の内部も遅かれ早かれ市場原理に浸透されてしまうからだった。

 他方で、外部を徹底的に排除した「閉じられた共同体」は、かつてのオウム教団のように「カリスマ的教祖に従うカルト教団」になってしまうであろうし、岡田氏の「FREEex」も岡田氏をアイドルとした会費制ファンクラブとどこが違うのかわからなくなってしまうであろう。

 しかし、「交換」を基軸とした市場原理にどっぷりつかり、これが未来永劫続く普遍的な社会システムであると錯覚してしまっているわれわれにとって、別の原理に基づく社会システムがあり得ることを気づかせてくれる。また、現代を「イワシ化社会(普段は巨大な群れとなって動き、どこにも価値の中心がなくなっている社会)」と呼び、「自分の気持ち至上主義」(第1章)、「一人でも生きていける時代は終わった」(第3章)、「結婚は誰でもできる仕組みになっている」「一番頼りになるのは『人柄の良さ』」(第7章)など、若者に推奨したいキーワードも多い。 (酒)

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