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2013年11月23日

【この1冊】『日本経済論の罪と罰』

メディアを賑わす誤解、曲解を次々と論破

c131122.jpg著者・小峰 隆夫
日経プレミアシリーズ、定価850円+税

 

 官庁エコノミスト出身のマクロ経済学の論客にしては刺激的なタイトルだが、その理由は本書を読み進めていけば容易に納得できる。メディアなどに登場する経済論にはあまりに「俗説」が多く、本書はそれに異議申し立てをすると同時に、日本経済の真の危機がどこにあるかを的確に指摘している。

 著者はまず、新聞やテレビなどに登場する「小泉改革で日本は格差社会になったが…」「日本は人口減によって内需は縮小するが…」といった「経済の枕詞(まくらことば)」に疑問を向け、きちんとした分析もないまま安易にこうした枕詞を使う政策立案者やメディアなどを批判、自身でその根拠を示している。

 本書では「脱経済成長論を疑え」「人口減少・市場縮小論の誤謬(ごびゅう)」「日本型雇用慣行に罪あり」「TPP亡国論をただす」など、現在話題になっている代表的なテーマを取り上げ、エビデンス(科学的データに基づいた証拠)による分析・評価を展開した。いちいち「ごもっとも」だが、読み終わった後で、なぜこうした当たり前のことに反対する勢力がいて、実現が困難になっているのか、首をかしげてしまう。

 結局は、既得権益と新たな権益の衝突という側面が大きいように感じられるが、どちらが日本の将来にとって良いのか、国民的な合意に至るには時間が掛かるという現実も垣間見える。しかし、著者によれば、財政再建はすでにその段階を過ぎており、「最大の敵は民意のバイアス」という強烈な表現を使って、再建の必要性を強調している。利害関係とは一切無縁な、ベテランエコノミストの「正論」として読み応えがある。 (のり)

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