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2015年3月14日

【この1冊】『キャリアポルノは人生の無駄だ』

ツイッター界ご意見番による「自己啓発書依存症」への警鐘

c150314.png著者・谷本 真由美
朝日新書、定価760円+税

 

 著者はツイッターで絶大な支持を受けるロンドン在住の元国連職員にしてITビジネスの最前線で働くMay_Romaさん(ハンドルネーム)。その大反響ブログ記事をテーマに書き下ろしたのが本書である。

 著者によれば、日本ほど自己啓発書がもてはやされている国はない。そうした自己啓発書がもてはやされる社会で、私たちはいったいどのように働くべきなのか、と問い掛ける。

 英語圏には、ゴージャスでおいしそうに見える食べ物や、それを料理するシーンをウェブサイトや雑誌で眺めるだけで満足する「フードポルノ」という言葉がある。日本の自己啓発書も、読むだけで満足してしまう点では「フードポルノ」と同様であるため、著者は「キャリアポルノ」と命名したと言う。

 その上で、「自己啓発書というのは、眼に見えない部分での努力や行動、勉強をすっ飛ばして、読むだけで自分の手の届かないもの(例えば、もっとやりがいのある仕事、高い給料、楽しい友達など)を想像し、自分が求めている欲望を満たすだけの『娯楽』に過ぎない」と喝破(かっぱ)する。

 そして、「読むだけ、聞くだけ、見るだけでは、自分の欲しいものは手にはいらない」にもかかわらず、自己啓発書の読者は次々と買っては読んで、なんとなく自分が凄い人になったような気になる。しかし、実は何もせず、痛みや苦労を体験せずに金持ちや成功者になれると思い込んでいる「自己中心的な怠け者」だと言う。

 では、日本では何故、若者を中心に多くの人が「キャリアポルノ」を必要とするのか。それは、グローバル化によって企業のコスト削減が進み、雇用の調整弁となる非正規雇用者が増加し、親の世代のような「職業的安定や経済的な豊かさを享受できない」経済的不安や恐れが原因だと言う。

 どうすれば、いいのか。著者は「効率よく仕事をし、人生を楽しめ」と言う。が、素晴らしいキャリアを積み、人生の成功者となっている著者による本書自体が、ある種の自己啓発書ではないかとの疑念が残る。 (酒)

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