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2016年2月20日

【この1冊】『ニッポンの貧困』

貧困対策は「福祉」でなく「投資」

c160220.jpg著者・中川 雅之
日経BP社、定価1400円+税

 

 現代日本は、世界がうらやむ「豊かな国」のはずだが、実は「貧困層」も拡大中の格差社会になっている。その「貧困」の内容とはなにか、実情と対策はどうすべきか。このテーマについてはすでに数多くの研究、著作、提言などが出ているが、本書は従来の切り口とはひと味違う。なぜなら、副題でうたっているように、貧困対策を慈善事業などの「社会福祉」にのみ限定するのではなく、国家社会に対する将来的な「投資」と位置付けているからだ。

 本書は5章で構成。統計データを使って貧困層の増加を確認し、過熱する「教育ゲーム」で生まれる貧困の連鎖、シングルマザーや「ドヤ街」など代表的な貧困層・地域ルポなどを交え、連鎖を断ち切ろうと努める支援者の活動やインタビューなども紹介している。ここまでなら、類似書とそれほどの違いはない。

 最大の特徴は、大手の外資系金融機関や小売りチェーンなどが実施している貧困撲滅のCSR(社会貢献活動)を紹介しながら、貧困層を減らすことと企業活動がどうなじむのかを浮き彫りにしている点だ。理屈は、ある意味で簡単。貧困層が増えれば生活保護などの社会福祉コストは増大するが、子供のころからきちんと教育を施し、就労や納税にまで結びつけることができれば、福祉コストの削減と税収増という一挙両得のプラス効果が生まれるという発想だ。

 もちろん、それには長期的な考えや視野が必要であり、コスト対効果の厳密な検証も行われるべきだが、そうしたわずかな“初期投資”によって、後々、大きな“果実”に育つ可能性が生まれるというところが本書の要点だ。欧米ではすでに、そうした「貧困投資」案件も育っているという。日本では「貧困ビジネス」と呼ばれる悪質商法がイメージされがちだが、発想も目的もまったく異なる社会投資であり、現代企業の発想の転換に役立ちそうだ。 (のり)

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