コラム記事一覧へ

2020年3月17日

【ブック&コラム】『脳科学者の母が、認知症になる』

認知症の日常を脳のメカニズムで分析

c200317.jpg著者・恩蔵 絢子
河出書房新社、定価1650円+税


 5人に1人ともいわれる認知症の国内高齢者だが、いまだに真の原因はわからず、有効な治療薬もない。知ってはいても、いざ家族が認知症になるとどうすればいいか、途方に暮れるのが多くのケースであろう。

 本書は、認知症になった母親の介護を通じて、脳のメカニズムから認知症へのアプローチを試みた女性脳科学者のユニークな記録。アルツハイマー型認知症を発症して2年半、母親の症状をつぶさに観察しながら、それが脳の活動とどのような関係があるのか、詳しく分析していて興味深い。

 科学者が使う専門用語は最少にとどめ、日ごろの母親の立ち居振る舞いに即した観点から書いており、文章も平易でわかりやすいのが大きな特徴だ。科学者ではあっても、同居する母親とのさまざまな確執など、認知症の家族を抱える家庭ならごく普通にみられる不安、焦り、失望なども隠さず語っており、それだけ身近に感じられる。

 本書は医学書ではないが、認知症の人が「記憶」を失うことと、「その人らしさ」を失うことは別だと結論づける。介護に疲れている家族にとって目からウロコの指摘も多く、読み進めるほど前向きになれる。残念なのは本書のタイトルで、これだと「脳科学者である母」が認知症になったとも受け取れる。出版社のミスか。(俊)

PAGETOP