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2020年7月23日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」30・短時間労働者への社会保険の適用拡大

Q 今年の通常国会で短時間労働者への社会保険の適用拡大が決まったと聞きました。具体的な内容と実務上の留意点を教えてください。

koiwa.png 2020年の通常国会では「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」(年金制度改正法)が5月29日に成立し、6月5日に公布されました。月収8.8万円以上等の要件を満たす短時間労働者については16年10月から500人超の企業への適用拡大が義務化され、17年10月からは500人以下の企業については労使の合意に基づいて企業単位で適用拡大が認められていましたが、さらに以下のスケジュールで拡大することが決まりました。

22年10月~ 100人超の企業
24年10月~ 50人超の企業

 22年から2段階で100人超、50人超規模へと適用拡大が進むことになりますので、深刻化する新型コロナウイルス感染症の雇用への影響への対応をはかりつつ、社会保険の適用拡大を見据えた経営や労務管理を視野に入れていく必要があります。なお、適用拡大の対象となる短時間労働者については、現行は以下の要件となっています。

①労働時間要件(週20時間) *
②賃金要件(月8.8万円以上)
③勤務期間要件(1年以上) *
④学生除外要件

 これらのうち、①と③については今後変更されることになります。①については週20時間の要件は、「実労働時間」による判断から「契約上の所定労働時間」による判断に変わることになります。現行は、契約上の労働時間が週20時間未満であっても実労働時間が週20時間以上の状態が続くと見込まれる場合は適用対象となりますが、改正後は「契約上の所定労働時間」で判断されることになるため、実務的にはより円滑な対応ができるでしょう。

 ③については「雇用期間が1年以上見込まれること」から「雇用期間が2カ月を超えることが見込まれること」に変更されることになります。そもそも社会保険の被保険者は2カ月以内の期間を定めて使用される人は対象となりませんが、短時間労働者の雇用期間についてもこのようなルールに合わせる形となりました。

 なお、適用規模を判断するときの「従業員数」は、適用拡大以前の通常の被保険者の人数を指し、それ以外の短時間労働者を含まないとされています。例えば社会保険に加入している正社員が60人、社会保険に加入していないパートタイマーが50人の会社は、合計110人となりますが、社会保険に加入している人数は60人であるため、24年10月から適用拡大に該当します。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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