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2020年7月30日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」31・パワハラに該当する例・しない例

Q ふとしたことで部下と意見がかみ合わず、部下から声を荒げて「お前はダメだ」「黙れ」といった罵声を受けたので、思わず大声で制止したところ、「パワハラだ」という主張を受けました。このような場合は、会社によるパワハラに該当するのでしょうか。

koiwa.png 6月1日からいわゆる「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)が大企業に施行され、職場におけるパワハラ対策が事業主の義務となりました。厚労省の「職場におけるハラスメント関係指針」によると、次の3つの要素をすべて満たす行為がパワハラだとされています。

①優越的な関係を背景とした言動であって
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
③労働者の就業環境が害されるもの

 これはあくまで行政上の指針であり、民事裁判が提起された場合などは個別の事実認定に基づいて判断されることになりますが、業務時間中に上司による言動によって部下が就業環境の悪化を訴えたという意味では、パワハラ行為に該当する可能性は皆無とはいえないでしょう。しかし、いかに意見の相違があったとはいえ、服務中に部下が上司に大声で罵声を浴びせるという行為は、一般論としては社会的なルールを欠く言動だと考えられます。

 具体的な状況が分からないので個別の判断はできませんが、「優越的な関係を背景とした言動」とは、事業主の業務を遂行するにあたって、言動を受ける労働者が言動の行為者に対して抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものとされていることから、問いのように部下が上司に対して自発的に抵抗している場合は一律にパワハラに該当するとはいえないでしょう。

 指針ではパワハラには6類型あるとされますが、このようなケースはあえて当てはめるなら「精神的な攻撃」に分類されます。しかし、それに該当しないと考えられる例として、「社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること」や「その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること」が挙げられています。

 いずれにしてもパワハラは指針の類型に該当しなければよいというものではなく、事業主はパワハラに起因する問題に対して労働者の関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払う努力義務を負っています。労働者の言動の適否にはルールに則って対応しつつ、だれもが納得できる円満な職場環境を目指していきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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