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2020年10月29日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」44・最高裁判決②メトロコマース事件

Q 10月に非正規雇用の待遇についての最高裁判決が相次いで出されました。そのうちメトロコマース事件はどのような内容だったのでしょうか。

 前回は大阪医科薬科大学事件について取り上げましたが、同じ10月14日に判決文が出たのがメトロコマース事件です。この事件では、正社員と非正規雇用との待遇差のうち、主に退職金が論点となりました。判決では、退職金の性格について以下のように評価しています。

 退職金は,上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり,第1審被告は,正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から,様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。

koiwa1.png 今回の事件で最高裁は、退職金について、「労務の対価の後払い」や「功労報償」などの複合的な性質を持ったものであり、正社員の人材確保や定着を目的としていた支給されていたと評価しました。あわせて正社員には配置転換があり、職能給が適用される一方で、契約社員には原則として配置転換も職能給も適用されていなかったことも、退職金の支給についての評価の要素と判断されています。

 さらに、正社員がほかの販売員の代務業務を務め、複数の店舗を統括したり、指導・改善業務やトラブル対応などに従事する一方で、契約社員はもっぱら販売業務にのみ従事していたことは、正社員と契約社員の業務や責任をめぐる役割が相当程度に異なるものであり、やはり退職金支給を判断する上での一要素だと位置づけられています。

 そして、大阪医科薬科大学事件と同様に、正社員登用制度の有無や実施状況も一定の判断要素と評価されています。判決文では、以下のように記載されています。

  第1審被告は,契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け,相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。これらの事情については,第1審原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり,労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下,職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。

 正社員登用制度については、厚生労働省によって正社員転換・待遇改善実現プランが策定され、キャリアアップ助成金(正社員コース)などが実施されていますが、必ずしも中小・零細企業にまで浸透しているとはいいきれないため、場合によっては新たに導入を検討したり、運用の改善などをはかる必要があるかもしれません。これらからの時代を見据えて、具体的な対応や実施を進めていきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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