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2020年12月24日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」52・東京商工会議所の「同一労働同一賃金まるわかりBOOK」

Q 同一労働同一賃金について社内で研修会などを開催したいと考えているのですが、なにか使いやすい資料などはあるでしょうか。

koiwa1.png 同一労働同一賃金については働き方改革関連法の内容がとても複雑で、制度や仕組みも多岐に渡っているため、全体像をとらえてコンパクトに共有するのは難しい部分があると思います。厚生労働省の各種のリーフレットや取組手順書、業界別の点検・検討マニュアルなどを片手に実務に対応していくことになると思いますが、11月に東京商工会議所から出された「同一労働同一賃金まるわかりBOOK」もとてもおすすめです。

 「同一労働同一賃金まるわかりBOOK」は東京商工会議所・産業政策第二部労働担当によって発行されていますが、約60ページの分量の中に、Ⅰ同一労働同一賃金の概要、Ⅱガイドラインと裁判例を踏まえた各待遇の対応、Ⅲ公的な支援策がコンパクトに網羅されているので、とても読みやすいと思います。特に、Ⅱは今年の最高裁判決なども含めた最新情報に基づいて整理されていますので、基本的な知識がある人が論点を復習・整理したいという場合にもとても参考になります。大阪医科薬科大学事件やメトロコマース事件で論点になった賞与や退職金について、「まるわかりBOOK」では以下のように整理されています。

〔賞与〕
 賞与には、労務の対価の後払い、長年の勤務に対する功労報償、生活費の補助、将来の労働に対する意欲向上など様々な趣旨や性格を有すると考えられるため、正社員と短時間・有期雇用労働者との間で異なる支給基準を設けている場合でも直ちに不合理であるとはされにくいと考えられます。
 会社の業績を基準に、各人の貢献度合いで支給額を決定する場合はガイドラインに則って支給することが基本となりますが、正社員と短時間・有期雇用労働者との間で、「職務の内容」、「人材活用の仕組み」等の相違があると考えられる場合は、その違いに応じて賞与の取り扱いに差をつけることは合理的であると考えられます。

〔退職金〕
 1年、2年等、期間限定で雇用するパートタイマー等であれば、長期雇用を前提とした退職金制度を設けない措置は不合理とはされにくいと考えられます。
 しかし、無期契約のパートタイマーや、有期契約であっても契約更新が繰り返され通算契約期間が長期にわたる契約社員等については、「長期雇用が見込まれるかどうか」という点では正社員と相違はないと判断される可能性もあります。

 具体的な判例の解説に続いて、このような要点がコメントされているため、実務上
のポイントを確認するには便利かもしれません。東京商工会議所の発行ではありますが、業種業態や規模を問わず全国の事業所で参考にできる内容だと思います。来年4月からは中小企業にも同一労働同一賃金が施行されますが、必要に応じて参考にしたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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