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2021年4月15日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」67・派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル③

Q 労使協定方式で「派遣先に料金交渉の必要性を適切に説明することが難しい」「派遣料金の引き上げに応じてもらえない」という場合の対応方法は?

koiwa1.png 「派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル」では、労使協定方式、派遣先均等・均衡方式に共通の「困りごと」として、「派遣先に料金交渉の必要性を適切に説明することが難しい」「派遣料金の引き上げに応じてもらえない」が紹介されています。いずれも派遣先との派遣料金の交渉に関することであり、派遣労働者の同一労働同一賃金を実施する上で派遣元が最も神経を使う部分だと思います。改正派遣法への対応にあたって約43%の事業所が派遣料金が上がったと回答しており(同マニュアルP13)、実際に一定の割合で引き上げが実施されていることが知られます。

 マニュアルでは、「派遣先に料金交渉の必要性を適切に説明することが難しい」ことへの対応として、派遣法の趣旨・内容を厚生労働省が公開している資料などを用いて派遣先と丁寧にコミュニケーションを取って説明を行う例、「派遣料金の引き上げに応じてもらえない」ことへの対応として、派遣元が提示する派遣料金に派遣先が納得できるよう、派遣料金の内訳・根拠を明示し、派遣法に基づく賃金引上げに伴う派遣料金の値上げであり、必ずしもマージンの引き上げではないことを説明する例が示されています。

 この点について派遣法では、「労働者派遣の役務の提供を受けようとする者及び派遣先は、当該労働者派遣に関する料金の額について、派遣元事業主が、(中略)協定の定めを遵守することができるものとなるように配慮しなければならない」(26条11項)とし、業務取扱要領では「派遣元事業主から要請があるにもかかわらず、派遣先が派遣料金の交渉に一切応じない場合。また、派遣元事業主が法第30条の3又は法第30条の4第1項に基づく賃金を確保するために必要な額を派遣先に提示した上で派遣料金の交渉を行ったにもかかわらず、派遣料金が当該額を下回る場合には、配慮義務を尽くしたとは解されず、指導の対象となり得る」とされています。

 派遣元としては、派遣法の同一労働同一賃金の仕組みについて派遣先に丁寧に説明し、以下の「労働者派遣事業報告書に添付される労使協定書の賃金等の記載状況について(一部事業所の集計結果)」などを参照に派遣料金の実態について正確な理解を求めていくことが大切でしょう。その上で、派遣労働者の法律上の義務でもある派遣労働者の教育訓練や年次有給休暇の原資でもあるマージン率についても、必要な認識を共有していく努力が必要だと思います。

労働者派遣事業報告書に添付される労使協定書の賃金等の記載状況について(一部事業所の集計結果・令和2年度)


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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