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2021年5月 6日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」70・社会福祉施設等への看護師の日雇い派遣

Q 社会福祉施設等への看護師の日雇い派遣が解禁されたと聞きましたが、具体的にはどのような内容なのでしょうか。

koiwa1.png 看護師派遣については社会福祉施設や保育園など医療機関ではない施設への派遣は認められていたものの、日雇い派遣は原則通り禁止されていました。新型コロナウイルス感染症の影響なども相まって看護師へのニーズが高まる中で、看護師不足解消の一つの選択肢として、4月からの派遣法(政省令)の改正により、社会福祉施設等への看護師の日雇い派遣が、へき地の医療機関への看護師などの派遣と同時に解禁されました。具体的な取扱いについては、3月2日の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令の一部を改正する政令の公布について」で示されています。

・社会福祉施設等における看護師の人材確保への対応
・派遣就業前に看護業務を適切に遂行するための教育訓練を実施
・利用者の日常的な健康管理の範囲内とし、派遣就業日の業務内容を定める
・労働者派遣契約で日雇い派遣看護師の条件を定める
・派遣先で従事する業務内容を把握し、ニーズに応じた選定に努める
・派遣先から緊急時の対応について説明を受け、内容を把握する
・具体的な業務内容や緊急時の対応を派遣就業前に本人に説明する
・労働社会保険の手続き
・届出を適切に進める
・就業条件明示書の確実な交付、派遣先の定期巡回の実施

 などの点がポイントとなっています。一定の要件が課せられたといえますが、派遣契約における業務の設定、オリエンテーションや教育訓練の実施や業務内容などの事前説明、派遣元・派遣先の責任の明確化など基本的な内容がほとんどであるといえるでしょう。へき地の医療機関への看護師派遣と同様に、確実に取扱いの要件に確実に対応していくことが第一歩となります。

 福祉及び介護施設における看護師の日雇い派遣に関するニーズ等の実態調査(令和2年3月、厚生労働省職業安定局需給調整事業課)では、「看護職員の派遣労働者を就業させる理由」の1位(73.1%)は「人員基準を満たすため」とされており、その意味では今回の改正が看護の現場のニーズに対応することが期待されています。一方で利用者との信頼関係が形成されていない状況での就業の課題や介護報酬と派遣料金との現実的なバランスなどの課題も指摘されています。業務実績のある派遣元にとっては派遣就業の拡大につながる可能性がありますが、日雇い派遣特有のマッチングの難しさや労務管理の複雑さもあり、人的のみならずシステムとしての管理機能も充実させていく必要がありそうです。

 今回の改正は業界にインパクトが大きいと思いますが、今後病院を含む日雇い派遣やへき地に限定しない規制緩和の議論も進むことが考えられ、そういった動向を見定める必要もあるのかもしれません。いずれしても改正内容自体は派遣業界の常識としてキャッチしておく必要がありますので、最低限の情報は押さえておきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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