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2021年5月25日

【ブック&コラム】書かせていただきます

 先日、スーパーへ私のお気に入りの歯ブラシを買いに行ったら、見つからない。店員さんに聞いたら売れ行きがよくて品切れになったとかで、「明日には置かせていただきます」との返事だった。品切れはともかく、「置かせていただきます」にはどうにも違和感が拭えない。それを言うなら「明日にはご用意できます」であり、普通に「明日入ります」でいいのではないだろうか。

c210525.JPG 昨今、テレビで芸能人らが当たり前のように「番組に出させていただく」などと言うのを聞くと、もう普通の言い回しになっているのかもしれない。ちょっとした言動に対して、SNSなどでやたらとバッシングを受けがちな芸能人ならではの"保身術"にもみえる。しかし、それが一般人にも影響を及ぼしているとすれば、「まともな日本語を使ってくれませんか」と言いたくなる。

 言語学者に言わせると、当初は敬意をもって使われる言葉も、多用されるうちに次第にそれが薄れて普通の言葉になってしまう「敬意低減の法則」という現象なんだとか。むずかしい理屈はともかく、言葉が本来の意味を失い、あるいは誤用されてそのまま定着するのは、それほど珍しいことではない。これも、その部類なのだろうか。

 幸いというか、今のところはというか、「させていただく」は話し言葉に限定されている。が、この調子ではいずれ新聞や雑誌などの活字媒体にも、「首相にインタビューさせていただいた」「ガザ地区からリポートさせていただく」などという文章が出て来るのだろうか。そんな記事、読みたくないな。(俊)

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