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2021年6月 3日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」74・「解雇」「整理解雇」「退職勧奨」の違い

Q コロナの影響により業績不振が続いていることから、やむなく人員削減を進めたいと考えています。解雇と整理解雇、退職勧奨の違いについて教えてください。

koiwa1.png コロナ禍の影響で企業業績が低迷したり、休業期間の長期化によって人員体制が変わることで、契約解除や待遇の見直しなどを図らざるを得ないケースもあります。多くの企業で雇用調整助成金などを活用することで雇用維持に向けた努力が続けられていますが、それでも多面的な取り組みを通じて成果が見えない場合には、最終的な経営判断として具体的な対応に踏み切るケースもあります。人員整理などを行う場合は、その目的・方法や無期契約なのか有期契約なのかによって、法律上の取扱いが異なります。

 有期契約の場合は、あらかじめ使用者と労働者が合意して契約期間を定めた契約であるため、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間中に解雇することはできず(労働契約法第17条)、解雇の有効性は無期契約の場合よりも厳しく判断されます。実務的には、契約期間中の解雇はよほどの事情がないかぎりは難しいと考えられるでしょう。無期雇用の場合は、以下のように「解雇」「整理解雇」「退職勧奨」の類型に分けられます。

「解雇」
 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効となるため、社会の常識に照らして納得できる理由が必要となります(労働契約法第16条)。解雇の際には少なくとも30日前に解雇予告をする必要があり、予告をしない場合は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。解雇はあくまでその労働者本人に原因がある場合の会社側からの契約解除ですので、経営不振などによる人員整理によって解雇を行う場合は「整理解雇」に該当します。

「整理解雇」
 不況や経営不振などの理由による人員削減のために行う解雇のことをいいます。整理解雇の場合は、次の「4要素」を満たしているかどうかで有効かどうかが厳しく判断されます。

①人員削減の必要性・・・人員削減の実施が不況、経営不振など企業経営上の十分な必要性に基づいていること
②解雇回避の努力・・・配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
③人選の合理性・・・整理解雇の対象者を決める基準が客観的・合理的で、その運用も公正であること
④解雇手続の妥当性・・・労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと

「退職勧奨」
 退職勧奨は、使用者が労働者に対して自発的な意思に基づいて退職するように勧めることをいいます。労働者の意思とは関係なく使用者が一方的に契約解除を通告する解雇とは異なり、一般的には退職金の上積みなどの優遇措置が講じられることが多いです。あくまで労働者が自由意思による退職が成立する必要があるため、常識を超えた頻度や長時間の拘束、大人数での交渉や精神的圧迫などパワハラに該当するような場合は、有効な退職勧奨とは認められません。

 労働契約の終了のルールについては報道などでもまれに混同して用いられていることがあるため、明確に要件を満たすかどうかの判断を行っていくことが肝要だと思います。厚生労働省のホームページにも分かりやすく紹介されていますので、参考にしたいものです。

「労働契約の終了に関するルール」


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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