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2021年7月 1日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」78・固定残業代を支給する場合の注意点

Q コロナの影響等もあって残業が減少しているので、残業代を定額の手当で支給しようと考えているのですが、どんな点に注意すべきですか。

koiwa1.png 一定時間分の時間外労働や休日労働、深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことを一般に「固定残業代」と呼びます。名称ではなく実態で判断しますので、「定額残業代」といわれることもありますし、営業手当、職務手当、業務手当などの名称でも趣旨が同じ手当であれば同様です。固定残業代は、総支給額のうち基本給や手当の内訳が分かりにくかったり、残業代などの計算・支給が正確に行われなかったりするケースなどもみられることから、求人や募集にあたってのトラブルが起こりがちです。ハローワークの求人票と実際の労働条件の相違に対する申出・苦情や、民間職業紹介機関の利用者の「求人条件と採用条件が異なっていた」という回答では、いずれも一番多い内容は「賃金に関すること(固定残業代を含む)」となっています。

 若者雇用促進法の指針でも、「一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金を定額で支払うこととする労働契約を締結する仕組みを採用する場合は、名称のいかんにかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金に係る計算方法、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うこと等を明示すること」とされ、国は募集要項や求人における固定残業代の表示を適切に行うよう周知しています。固定残業代制を採用する場合は、募集要項や求人票などに次の①~③をすべて明示しなければなりません。

①固定残業代を除いた基本給の額
②固定残業代の労働時間数と金額等の計算方法
③固定残業時間を超える時間外労働、休日労働、深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨


 固定残業は、①基本給(〇〇円)(②を除く)、②固定残業代(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として〇〇円を支給)、③○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給、のように具体的に記載しなければなりません。名称が固定残業代以外の場合に該当する手当の名称を記載し、手当に固定残業代以外の手当を含む場合は、固定残業代分の内訳を分けて記載することになります。深夜労働や休日労働について固定残業代制を採用する場合も同様の記載が必要ですが、この場合はそれぞれの内訳を記載することが望ましいです。

 筆者の現場感覚では、(3)をめぐる労使トラブルや実務上の問題が発生するケースが比較的多く、固定分を超える割増賃金を支払わないような明らかな労基法違反は論外にしても、固定分の時間設定や割増賃金の正確な清算などにはとりわけ実務上のミスがないようにしなければなりません。固定残業代も含めて賃金の計算方法は就業規則の絶対的記載事項ですので、この点にも留意したいものです。

「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします」


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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