Q 年金制度改革法案のうち、厚生年金の標準報酬月額の上限段階的引き上げについては、具体的にどのような内容でしょうか。
A 以下の内容が盛り込まれている、年金制度改革法(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)が、6月13日の参院本会議で可決成立し、順次施行されます。今回は、このうち、厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引き上げについて触れます。
2.在職老齢年金制度の見直し
3.遺族年金の見直し
4.厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引き上げ
5.私的年金制度の見直し など
厚生年金保険料の基礎となる「標準報酬月額」は現在65万円が上限であり、この水準を超えた場合はどれだけ給料が上がったとしても保険料は一律であり、将来受けられる年金額も頭打ちになることから、老後の生活設計なども踏まえて上限の引き上げを行うべきだという意見がありました。今回の改正では、2027年から上限額が段階的に引き上げられ、以下のスケジュールで3年間で75万円に変更されることで、賞与込みでおよそ年収1000万円超の人は、今回の見直しによって厚生年金保険料が高くなることになります。
2028年9月~ 68万円 → 71万円(第34級新設)
2029年9月~ 71万円 → 75万円(第35級新設)
上限引き上げにより、対象となる従業員の手取り額は段階的に減少することになり、現在標準報酬月額65万円の場合で試算すると、2027年9月に約2700円、2028年9月に約2800円、2029年9月に約3500円が目減りすることになります(3年間で約9000円)。一方で、厚生労働省の試算によると、改定後の標準報酬月額で20年間保険料を納付すると、月額約1万円の年金額の増加が見込まれることから、少なくとも従業員の視点からみれば、長期的にはプラスの効果が期待できるといえます。ただし、現役時代の月々の手取りが減少することは避けられませんので、昨今の物価高や景況不安の中での生活設計に影響が出ることは避けられないかもしれません。
厚生年金保険料の事業主負担分については、65万円を超える従業員の数に応じて確実に増加するため、年収1000万円超の従業員を多数抱える事業所は、少なからぬ影響が懸念されます。当然ながら厚生年金は役員にも適用されますので、取締役の人員が多い場合なども会社の法定福利費の上昇につながるでしょう。実務的には、総額人件費が同じ場合でも、月額給与と賞与の比率が変わることで結果として保険料が変わるケースもありますが、不利益変更などの労務問題が生じる可能性があるほか、役員については税務面での大きな影響が生じることもあるため、丁寧な説明を通じて事前の理解を得ることが何より肝要だといえるでしょう。
まずは、2027年からの引き上げの内容をしっかりと把握しつつ、該当者の標準報酬月額の変更シミュレーションを行うなどして、従業員および会社の負担への影響を考察しつつ、具体的な実務対応へと備えていきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)