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2021年8月19日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」85・労使協定方式の令和4年度局長通達

Q 労使協定方式の令和4年度の局長通達が公開されたと聞きました。来年度の労使協定の実務にあたって、どんな点に気をつけるべきですか。

koiwa1.png 派遣法では派遣労働者の待遇決定にあたって労使協定方式を採用する場合は、毎年の局長通達で公表される「一般賃金」の水準を遵守しなければなりません。一般賃金の水準は2年前の賃金構造基本統計調査と職業安定業務統計の数値をもとに発表されますが、能力・経験調整指数については全体として横ばいかやや下がる職種が多い傾向がみられるといえます。もちろん、いずれの統計を用いるかによって数値は異なりますし、一般賃金の水準自体は職種ごとに上がったり下がったりしているため、実際に適用される一般賃金の内容を必ず確認しなければなりません。令和4年度の一般賃金の概要は、以下の通りです。

①賞与指数  0.02(変更なし)
②能力・経験調整指数  変更
③学歴初任給との調整  12.6%→12.7%
④一般通勤手当  74円→71円
⑤退職手当  「中小企業の賃金・退職金事情(東京都)」のみ更新
⑥退職金割合  6%(変更なし)

 令和4年度の一般賃金の内容が公表されたことで、来年度の労使協定を見据えた派遣労働者の賃金設定や派遣先との料金交渉などのための準備を進める必要があります。労使協定方式の適用も3年目となるため派遣元と派遣先との間での実務の流れは構築されているケースが多いと思いますが、派遣元の実務担当者としては何よりも適用職種の一般賃金の内容を正確に把握して、関係者に説明・周知していくことが肝要でしょう。令和4年度の一般賃金は、職種ごとに更新されている一方で、一般通勤手当のように引き下げとなったもの、賞与指数や退職金割合のように変更なしのものもあるため注意したいものです。

 労使協定方式の場合の賞与は、退職金前払い、中退共等、退職金制度の3種類がありますが、このうち退職金制度を採用している場合は注意が必要です。退職金制度は通達の別添4をもとに設定されますが、もっとも採用割合が高いであろう中小企業の賃金・退職金事情(東京都)の水準が更新されています。全体として退職金の水準が低くなっているため、労使協定方式における退職金制度の見直しも課題となります。退職金制度については労使協定にとどまらず、就業規則(退職金規程)の変更や不利益変更の要素にも留意する必要があるため、実務対応には細心の注意を払いたいものです。

 なお、令和3年度に労使で合意した場合に従前の一般賃金の水準に据え置くことができた「例外的取扱い」の措置は令和4年度には置かれないため、令和3年度に適用していた場合は従来の一般賃金の水準に戻すことが必要となります。この場合も令和4年度の事業報告書で令和3年度に適用した例外的取扱いの実績について報告することが必要となりますので注意しましょう。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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