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2021年10月19日

【ブック&コラム】「論より実行」では

 遅まきながら、文芸春秋の「財務次官、モノ申す~このままでは国家財政は破綻する」を読んだ。賛否両論を呼んでいる話題の寄稿だが、ごく当たり前のことが書いてあるだけで、とりたてて目新しい内容もないという印象だった。騒ぎになった理由は、本来は政府の「黒子」であるべき霞が関の官僚が政権を批判し、衆院選を前にバラマキ方法に苦心している政治に真っ向から異を唱えたからであろう。寄稿のタイミングが絶妙だったことが騒ぎに輪を掛けたようだ。

c211019.jpg 寄稿内容には賛成だが、「財政をあずかり国庫の管理を任された立場」であり、「不作為の罪」を重ねてきた役所のトップが、この期に及んで借金財政の危機を訴える点は承服しかねる。財務省は1975年度の赤字国債の本格発行以来、何をしてきたのか。政治の世界は言うに及ばず、霞が関の官庁も基本的には予算を増やす立場。それに歯止めを掛ける役割と権限を持つのは財務省しかなく、そこがメディアや評論家たちとは決定的に違うからだ。

 だから、政官界でも特別に強大な権限を持たされていたはずで、それはかつての「官官接待」問題で明らかになったことでもわかる。結果的には、何の役にも立たなかった。そんな官僚世界に見切りを付け、政界に転身する財務官僚が目白押しであり、永田町の中枢に入り込んでいる。しかも、財務省OBだから財政抑制派に回るのではと思うと、さにあらず。多くはコロリと変身して予算の分捕り合戦に加わるから始末が悪い。

 残念ながら、この寄稿に賛同して考えを変える官僚や政治家が増えるとは思えない。せめて、今回の衆院選で「財源のあやふやなバラマキ公約はうさん臭い」と疑問を持つ有権者が増えるくらいの効果は期待したいが。次官の"憂国"ぶりはよくわかったから、早く実際の財政再建に取り組んでもらいたい。至難の業だろうが、ここまで書いた以上、その覚悟はありますよね?(間)

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