コラム記事一覧へ

2021年10月28日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」95・男性の育児休業取得のポイント②

Q 育児休業について、休業期間中にどうしても対応せざるを得ない業務があった場合はどうしたらいいですか。

koiwa1.png 育児休業をした取得した期間は、本来労働者が労働する義務がある日(期間)について会社が労働義務を免除している期間ですので、原則として勤務することができません。たとえば男性が育児休業を取得することで申請できる助成金などもありますが、育児休業期間中に出勤した場合は対象外となってしまいます。ところが、労働者の立場や状況によってはどうしても外すことができない業務などが発生してしまうため、本音では家族のために育児休業を取得したいと思っていても、泣く泣く取得を断念せざるを得ないといった矛盾が生じてしまうことがあります。

 そこで改正育児介護休業法では、労使協定を締結している場合に限って、労働者が合意した範囲で休業中に就業することができるルールが新設されることになりました。あくまで労働者本人の希望であることを前提に、事業主にその条件を申し出て、事業主が申し出の条件の範囲内で候補日や時間を提示し、労働者が同意した範囲で就業するという流れになります。2022年10月からの施行となりますが、うまく運用すれば弾力的な働き方と育児休業を両立させることができ、労働者本人にとっても職場にとっても有意義な活用が可能となるでしょう。

 従来、育児介護休業には、「引き続き雇用された期間が1年以上であること」「1歳6か月までの間に契約が満了することが明らかでないこと」という要件があり、パートタイマーや契約社員が取得するのは困難なケースが少なくありませんでした。改正育児介護休業法では、「引き続き雇用された期間が1年以上であること」という要件が削除され、入社1年未満の契約社員でも取得できるようになります。これからはもう契約社員だからパートタイマーだから育児休業は関係ないといった世の中では確実になくなります。

 かつての日本では、育児休業や介護休業はフルタイムの正社員のみが取得するものであり、育児休業は女性社員のための制度だという発想が支配的だったと思います。これはいうなれば、正社員は1日8時間、週5日働くのが当たり前であり、それ以外の非正規雇用の人たちはあくまで正社員をサポートする存在だという偏見が根強くあったことの裏返しです。今では多様な働き方が認められる世の中になりつつあり、短時間正社員や男性の育児休業、テレワークやワーケーション、雇用によらない働き方なども定着しつつあります。私たちはコロナ禍という試練を経験しましたが、その中でもたらされた知恵や経験は、確実に未来志向で多様な働き方を引き寄せるきっかけになったと思います。「男だからフルタイムで働くのは当たり前」「育児や家事は女性(妻)が担って当然」という発想が、必ずしもすべての人に共有できる価値とは限らない時代であることを念頭において、未来志向で多様な働き方と向き合っていきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

PAGETOP